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作品名:宇宙の光彩プロローグ 作者:佐藤 神

第2回   2

「この宇宙船に、おれみたいな地球人は何人いるんだ?」
「確か、アッキーを含めて3人いるわ。調査が終わったら記憶を消して、地球に返しま
すけど」
「フーン、記憶を消すのは、勿体ない様な気がするな」
「仕方がないわ、わたし達の存在は未確認なのよ。さあ、部屋に着いたわ」
 アッキーは部屋番号を見る。文字が分からないので文字の形を暗記しようとする。
「アッキー、部屋番号は気にしないで、迷子になったら、ナインのお客だと言って。み
んな親切にここまで案内してくれるわ。ねえ、狭いけどこの部屋で二週間暮らしましょ
う」
 部屋はワンルームであった。小さなキッチンに、シャーワー、トイレが付いていた。
「へー、料理も作るの?」
「ええッ、食堂の食事に飽きた時にね」
 ナインの目がチラッとベットを見た。
「あの、子供を作るときの愛しかただけど、地球の作法で、それとも宇宙の作法で?」
 アッキーはナインの目を見て言う。
「アッキーに任せるわ」
 ナインは恥ずかしいのか白い頬を微かに朱に染めて、目を逸らした。
「おれは経験豊富だけど、ナインはどうなの?」
「ないわ」
「ええッ、ないの?」
「そうよ、宇宙人は人口受胎なのよ。セックスはしないの。だけど、今回、全てのデー
タを残したくて」
「うん、学者も大変だな」
「なによ、その言い方、わたしが淫乱みたいじゃないのよ」
「そんなつもりはない、それに言い合いしていると時間がなくなるぞ」
 ナインは小さく頷いた。

 その夜。
 アッキーとナインは早めに食堂に入る、すでに先客が食事をしていた。
 食堂というより、湖畔の中で食事をしているようである。遠くに森、林、湖があり、
上を見上げると夕暮れの雲が、黄金色に輝いている。野鳥も飛びまわり、鳴き声も聞こ
える。
 柔らかな夕日が木々の隙間から漏れ、近くのコスモスみたいな花に光を優しく投げか
ける。茎が細く風車のような花々、そのうちの一輪が風に揺れてクルクル回っていた。
「うーん、ナイン、宇宙船の中とは思えない」
「ええッ、ホログラムが投影されているの。だって半年以上もこの宇宙船で生活するの
よ。飽きないように毎日、景色を変えてるの」
「空気も違うな?」
「そうよ、空気の成分が湖畔と同じにしてあるの。さあ、景色ばかり見ないで、わたし
達も食事にしましょう」

 ナインは壁に設置された装置から、トレーを取り出した。その上のものを見てアッキ
ーはがっかりした。
 ステック状のビスケット4本とスープ、そして、ゼリー状のデザートらしきものが付
いていた。それが宇宙人の一食分である。
「うーん、味は美味くもなく、不味くもない。だが量が少し足らないな」
「あら、そう。もらってくるわ、夜のお勤めに影響が出るといけないから」
「じゃ、一人前頼むよ」

 翌日。
 ナインが報告書を作成するため、端末の前に坐っている。
「ねえッ、アッキー、昨日のことなんだけど、指をなめていたのは、地球の作法なの。
なんて書けばいいの?」
 不思議そうな顔でナインはアッキーを見詰た。
「うん、地球の作法だ。セックスに慣れるまではな。だけど、そんな事まで報告するの
か?」
「そうよ」
 昨日、ナインとアッキーは初めて知り合った。そして、研究のためとは言えナインは
肌を許した。宇宙人でも肌を許すと、昨日までの緊張感が取れて、ナインの目つきが優
しくなった。

 ナインが報告書を作成している間、アッキーは宇宙船の中を見学するため、ふらりと
部屋を出た。ナインと二人で歩いている時は、気にならなかったが、一人で歩いている
と何となく、すれちがう宇宙人の目が気になった。見詰られてる訳ではないが、一瞬、
モルモットでも見るような目つきでアッキーを見る。
 アッキーは、その目に耐えられなかった。そのうちアッキーの顔は無表情になり逆に
睨み付けていた。それでも暫く歩いていたら、ゲームコーナーにぶつかった。流石に宇
宙船、豪華な作りである。

 ゲーム機を見ると、飛行機を操縦するコックピットみたいな感じで、いろいろな計器
が付いている。スクリーンを見るとワイドに180度の視野がある。奥行きがあり、リ
アルに体感できそうだ。操縦桿を握っただけで、気分が高揚してくる。
 ゲーム機の説明は宇宙語で書かれていたので、アッキーには読めなかった。仕方なく
負けるのを覚悟でゲームをやることに決めた。
 コインを入れるところも無く、ボタンを触ったら勝手に動いた。どうやら戦闘機同士
で相手を撃ち落すゲームみたいだった。失敗を重ねて、タッチパネルを何度か押してい
たらついに設定を完了した。

 そして、アッキーは人目を気にせず、ゲームに熱中する。初めは要領が分からず、敵
にやられていたが、コツが分かると敵を全滅させた。すると、ランプが点滅して、ファ
ンファレーが高々に鳴り出した。
「おッ、賞品か何かもらえるのかな?」
 アッキーは少し得意顔で、辺りをキョロキョロと見回す。すると、係員らしき男がや
ってきた。その男は、ゲーム機を見てから怪訝そうにアッキーを見詰た。
「えーと、あなたがやったんですか?」
「ええッ、何かもらえるんですか?」
「いえ、何も出ません。あなたはナインのお客さんですね?」
「はい、そうです」
「よかったら、いくらでもおやり下さい。全滅させた場合は、ここを押せばリセットさ
れます」
「あッ、どうもありがとう」
 アッキーはその後も、連続で五回全滅させ、意気揚々と引き上げた。

 次の日は、早朝会議があると言うことで、アッキーが起きたときには、ナインの姿は
なかった。アッキーはとりあえず、食堂に向かった。その時、宇宙船内に警報音が響き
渡った。
《ビューン、ビューン、ビューン》
 けたたましい警報をアッキーは気にも留めず、食事を取った。その帰り、ゲームコー
ナーに寄ったが、混んでいたので部屋に帰る。
「あッ、アッキー、大変なのよ。宇宙海賊がこの宇宙船を攻撃してきたわ」
 ナインの美しい顔が歪んだ。
「なに、宇宙海賊?」
「それが、わたしたちが負けたみたい、この宇宙船には警護用の小型高速艇が5隻配備
されていたけど、3隻が撃ち落とされたわ」
「フーン、海賊は?」
「10隻の小型高速艇で襲ってきて1隻を撃墜したんだって」
「残り9隻か、残念ながら勝ち目はないな」
 アッキーは顔を背けた。
「それで、アッキーにも、緊急会議に出席してくれって」
「何でだよ、宇宙人同士の戦いだろう。おれは地球人だ」
「この宇宙船にいる以上、逆らうことは許されないわ」
 凛然とした顔でナインが言う。

 そして、アッキーは会議の末席に連なる。中央にはミラー統括官の顔が見えた。
「来たわね、アッキー。力を貸して欲しいの」
「うーん、地球人のおれに何を?」
「ナインから、話を聞いていると思うけど、宇宙海賊に襲撃されて、この宇宙船の防御
は壊滅状態です。宇宙海賊の宇宙船は戦闘用宇宙船、我々の宇宙船は大きいだけの調査
用宇宙船です」
 アッキーは小さく頷く。
「我々に残された選択値は、限られているわ。命欲しさに降伏すれば、海賊に蹂躙され
されます。それで我々は蹂躙されるより、自爆を選びました」
 ミラー統括官は静に言った。
「そうですか、それが定めなら、仕方がありませんね」
 諦め顔で、アッキーが言う。
「うん、だけど、あと無疵の小型高速艇が二隻残っています。隊長と、新人の隊員が搭
乗して、最後の突撃をする予定だったんですが、新人の様子がおかしくなり、寝込んで
います。たぶん、味方の3隻が目の前で撃墜されたので、そのショックを受けたのでし
ょう」
「うん、分かりますよ」
 アッキーが大きく頷く。





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