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作品名:君がいた夏 〜思い出に君を置く〜 作者:全充

第7回   二人の実家
 僕は彼女の服がTシャツとジーンズ、それにジャージしかないことが気になっていた。実家にある姉の服を借りればいいだろうと思い、結婚して東京にいる姉に電話した。
 姉には陸上部の一年女子が小火騒ぎにあって、着るものを無くして困っていると説明した。
「その娘、コウちゃんの彼女でしょ。だって、どうしてコウちゃんがその娘の面倒みてるの?陸上部には他に女性いるでしょ。先輩にも女子部員いるじゃない。どうしてコウちゃんなの」
 姉はするどくつっこんできた。僕が何となくしどろもどろな説明をしていると
「もういいわ。どっちにしても、その娘が気にいったものを持っていっていいわよ。どうせ山下家には私の結婚前の服を必要とするような人はいないでしょ。箪笥のこやしにしているくらいなら、コウちゃんの彼女に着てもらったほうが、私の服も幸せってもんでしょ。私から浩子さんに説明しておくから、その娘と一緒に実家まで取りにいきなさい」そう言ってくれた。
 浩子さんっていうのは、従兄の祐樹さんの奥さんで、僕たちの留守にしている家を祐樹さんといっしょに守っていてくれている。

 僕は、姉の許しを貰ったよといって、彼女を連れ出し、朝一番に下宿を後にした。

 十時前に岐阜の実家に着くと、浩子さんが歓迎の面持ちで迎えてくれた。
「さっき由紀さんから、コウちゃんが彼女を連れていくのでよろしくって連絡があったの。本当に彼女連れてきたのね」そう言って、彼女にも「陽子さんでしたわね。始めまして、シュートカットが似合って、由紀さんに感じが似ているわ」と声をかけた。
 浩子さんの言葉に顔を赤らめ
「あの、始めまして。このたびは、光一さんに誘われて、お姉さんの洋服をいただけるということで、あつかましくもおじゃましました」なんてしどろもどろな挨拶を交わして家の中に入った。
 浩子さんが「どうぞ、こちらよ」と姉の部屋に向かうのを見送りながら、僕の腕をひっぱり
「もう、冷や汗ものよ。私だってよく知っている浩子さんに初対面の挨拶なんて」
小声でつぶやいた後「おじゃまします」と言いながら、浩子さんの後に従った。

 二人で姉の部屋に入り、浩子さんが「ゆっくりしていってくださいね」と言って出て行くと、さっそく勝手知ったる我が家とばかりに、彼女は姉のクロゼットの中にある洋服の物色を始めた。
 やはり彼女も普通の女の子らしく、嬉々として姉の服をあれこれ引っ張り出しては姿見を見て身体に合せていた。
 時々、姉のお古を抱きしめ、姉の匂いがすると言っては懐かしそうな、すこし物憂げな様子を見せた。

 しばらくして、もらっていくものを決めて落ち着いたのか
「光一君、コウちゃんって呼ばれてるんだね。私もそう呼ばせてもらうね。わたしのことはYoでいいよ。お父さんが私を呼ぶ時はいつもそう。それが友達にも伝わって、いつのまにか仲間内での私の呼び名になったの」そんなことを言った。


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