“京都での国公立大会前日”陽子がそんなメッセージを残し、彼女の世界へ戻ってから二年が経過した。 彼女は咄嗟に書き留めたのだろう。自分の世界に戻る瞬間に何かを僕に知らせたくて、それだけを書いたところで、手放したのだろう。 僕はあれから京西大学を訪ね、山下陽子なる人物を探して見た。陸上部にも理学部にもそんな女性はいなかった。生物学科に陽子という名前の女性は一人いた。でもYoとは別人だった。陸上部の人にも心当たりがないか聞いてみたが、どの学部にも山下陽子と思われる女性はいないということだった。
京西大学のグランドで、軽い百mの流しを五本、刺激を入れるためスパイクを履いての全力走を一本終え、クールダウン後のストレッチをしている時、僕の方に向かってゆっくり歩いて来る人影が目に入った。 その人物は僕の前に立つと 「山下光一君ですね。始めまして。直ぐに判りました。僕は清宮光一といいます」 そう挨拶した。 僕は目を上げ声の主を見た。一瞬身体が金縛りにあったかのように動きが止まった。 そこには色白なことを除けばまったくもって山下光一そのものという人物が立っていた。 そしてその横に寄り添うように控えめに立つ女性。 Yo? いや髪はストレートに長く、日本人形のように色白でYoに比べると幾分華奢な容姿。 姉貴に似ていると思った。
それが僕の世界にいる陽子、清宮詩音との出会いだった。
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