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作品名:君がいた夏 〜思い出に君を置く〜 作者:全充

第15回   思い出づくり
 朝からYoは、はりきっていた。六時には起きて、二人分の弁当を楽しそうに作っていた。
 Yoがおかずを詰め込む間、僕はおにぎりを握った。今日は梅干しは入れないからねと言って、Yoが焼いてほぐしたしゃけを中に入れるように渡してくれた。僕は梅干しが苦手だ。今日は特別だとYoは言った。
 八時には家を出ないと、明治村に十時前に着くのは無理だからと、Yoは僕が着替えるのを急がせた。

 明治村に着くとYoはめずらしい洋館に目を奪われていた。
「こんなめずらしい昔の建物コウちゃんは興味ない?コウちゃん日本史嫌い?私は好きだな、明治になってから日本は西洋文化を取り入れるのに一所懸命だったの」
 見るもの全てがYoの興味を捕らえて離さないという感じだった。

 土産売り場で物色していたYoが、おもしろいものがあると僕を呼んだ。
「このネックレス、キラキラしたプレートにYou & Iって刻んであるんだ。なにこれ、Yoとコウちゃんにそのまま使えるじゃない」
「どうして?」僕は意味がわからなかった。
「だって、見てYouはヨウだから陽子、キラキラしたIは1だからコウちゃんじゃない。でしょ」そう言ってプレートの文字を僕に見せた。
 Yoは二つ買って、一つを僕に渡した。
「Yoは帰っても、このネックレスを胸に試合に出るんだ。コウちゃん、ちゃんと力貸してね」

 入鹿池を眺めながら二人で用意した弁当を食べた。
 ゆったりと時間が流れていた。Yoは視線を遠くに何か考え込んでいるようだった。
「ねぇ、もう一度金華山に行っていい?岐阜の街をコウちゃんと一緒に眺めておきたいんだ」
「かまわないけど、別に岐阜の街なんていつでも見れると思うけど」
 Yoは顔の前で両手を合せて、お願いのポーズをした。僕は別にYoと一緒に時間を過すことが出来れば何処でもよかった。
 犬山駅に戻り、岐阜行きの電車に乗り、岐阜駅からはバスに乗った。二人が岐阜公園に着いたのは十六時過ぎていた。また歩いて頂上を目指した。
 Yoは岐阜城の中も見たいと言った。
「夕方の岐阜の景色を眺めたいから、もう少しここに居ていい?」

 夕日が伊吹山の上にきた頃、西の方が見える場所を取り、Yoは僕の横に座った。
「奇麗だね」
 夕日に映える街を眺めながらYoが言った。
「コウちゃん、明日、あの太陽の黒点が消える可能性が高いの」
「うん」僕は肯くしかなかった。
「その時、図書館のあの場所が私の世界と繋がると思うの。確信はないけど、そう思うの」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」僕はおざなりな返事をした。
「そうね。でも私は信じている。だって私はこの世界に居てはいけない人間なのよ。このまま居たら自信がないのよ。コウちゃんとのこと。私はずっと耐えてきた。気持ちを押さえてきた」
 僕は何も言えなかった。Yoは独りで話し続けた。
「私がどうしてこの世界に来たのかはわからない。そして何故コウちゃんだったのかも。きっとそう決められていたからコウちゃんに出会ったのだと思う。戻ったら私の世界のコウちゃんを探してみる。きっと会えると思う」
 Yoは話すのを止め、遠く夕焼けの空を眺めた。
「コウちゃん。すこし甘えさせて」そう言って、僕の肩にYoは頭をのせ、身体を寄せてきた。


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