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作品名:君がいた夏 〜思い出に君を置く〜 作者:全充

第14回   決心
 東海選手権を終え名古屋に戻ると、Yoはまた言葉少なになった。Yoは自分の世界のことを考えていることは明白だった。
 いま存在する太陽黒点が自分の世界に戻る鍵であることは間違いないと思っていた。そして自分がこちらの世界に来たのは閉架の書棚の前に違いないと結論づけた。

 Yoは思い出したのだ。僕がYoに出会った時に借りた本は、Yoが借りた本と同じ物だった。そして、Yoがその本を書棚から取り出した後、同じ本が書棚にあったことを。
「本を手にした時に、変だなって思ったのよ。取り出した時は一冊しかないと思っていたのに、本を手にした後、何故だかもう一度本棚を見ていたの。その時確かにもう一冊あった。あれ、さっき手を伸ばした時は一冊だったよなって思いながら、閉架を出たの。その時は私の勘違いだ、なんだ二冊あるんだって思ったの」
 Yoは伊勢から戻った夜そんなことを言っていた。
 前に図書館で確認した時、その本は一冊しか登録されていないということだった。僕が借りた時に返却記録がなかったので、一旦返却処理されたということだった。
 そして、僕の持っている本とYoの持っている本は、日焼け跡や、書き込みの場所、筆跡も同じもので、同一の本であることは間違いなかった。
 でもYoは確かに書棚に同じ本を見たとYoは確信していた。

 さらに、陽子はインターネットのサイエンスニュースを調べ、問題の太陽黒点が出現したのが十三時十分頃だということが判ったのだ。
『きっと太陽黒点が出来た特と私が書棚の前にいた時刻は同じだ。その時、あの場所の空間が磁場の乱れで、こちらの世界と繋がったんだ』
 陽子はそう考えた。そして、その太陽黒点が消える時、もう一度、向こうの世界と繋がるに違いないと。
 しかし陽子のこころは微妙に揺れた。
 自分の世界に戻るということは、光一と会えなくなるということだからだ。自分のこころに光一が占める範囲が大きくなりすぎていた。一ヶ月近く同じ屋根の下で暮らし、一日中一緒にいた。グランドで光一の背中を追いかけた。今までに感じたことの無いくらいこころが満たされていた。
 でもよく考えればわかるように、光一と陽子は遺伝子的には全く同じなのだ。双子なんてものじゃない。クローンのようなものだと思っていた。
 叶わぬ想い。いや叶えてはいけない思いなのだと気がついた。
 自分の世界に帰ることができるのならば、帰らなければいけない。このままこの世界に居続ける事は、何か歪が生じるような気がした。こちらには別の陽子が居るに違いない。もしかしたら光一と将来めぐり会うかもしれない。陽子の世界にも光一がいるに違いない。自分の世界の光一を探すべきだ。

 陽子のこころにはっきり道筋が見えた気がした。

「コウちゃん、明日、明治村にいかない?」
 陽子は、自分の世界に戻る前に、しっかりとした光一との思い出を作って置きたいと思った。

 問題の太陽黒点は後数日で消滅する。明後日十八時ごろの可能性が高いとの専門家の話をインターネットで見つけたのだ。


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