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作品名:君がいた夏 〜思い出に君を置く〜 作者:全充

第12回   太陽黒点
 東海選手権出場のため三重県伊勢の五十鈴川に向かう前日、戦勝祈願と称して二人で熱田神宮に行った。
 本山から地下鉄名城線に乗り伝馬町で降りて、別宮に寄ってから本宮につながる道を歩いた。
「ここには草薙の剣が奉納されているけど、天照大神も奉られているんだよ」
 Yoが得意げに話した。僕はここは戦いの神様だと思っていた。
「でも、明日行く、伊勢こそ正真正銘の天照大神が奉られている所だよ」
「そうね、日本の太陽の神様よね。あはっ、Yoの守護神だ。ここでも祈願して、明日伊勢でもう一度お願いすれば、完璧だ」
 この三週間、本当にYoは頑張った。五十の加速走は五秒二が出るまでになった。これなら愛知県選手権の時みたいな極端な後半の落ち込みは無く、粘ることができるだろう。
 後はスタートで頑張りすぎて力を使い切らなければ、いい線いくんじゃないだろうか。三百でスタミナも付いてきた。
 僕は自分の事より、Yoの事ばかりお願いしていた。
 僕が目を開けても、まだYoはお願いをしていた。
「何をお願いしたの?」Yoが目を開けたので、僕は聞いた。
「いろいろ、ね。ちゃんとコウちゃんの事もお願いしておいてあげたよ。頑張れますようにって」そう言って、笑顔一杯で僕の背中をたたいた。
 Yoの笑顔はいつも僕の心に小波を起こし、正体不明の痛みを残して通り過ぎていく。

 翌朝、僕が起きるとYoは既に食事の用意をすませ、僕が起きて来るのを待ちながら、熱心に新聞を読んでいた。
「おはよう。何かおもしろい記事でも載っているの?」
「うん?あっ、コウちゃん。気が付かなくてごめんね。おはよう」
 僕はもう一度聞いた。
「何が書いてあるの?」
「今、めずらしい黒点が太陽に出てるんだって。もう出現してから一ヶ月近くなるらしいの。一ヶ月以上存在する黒点っていうのめずらしいんだって」
「ふーん。黒点って地球の磁場が影響受けたりするんだよね。」
「八月一日に現れたんだ。これって私がこちらの世界に来ちゃった日だ、何か関係あるのかな?これが消えたら、Yoも一緒に消えたりして」
 このところふいに僕のこころに沸き上がり通り過ぎていく痛みの正体、Yoが突然僕の目の前からいなくなること。突然現れた時と同じようにYoは消えてしまうんじゃないか。
 Yoの気持ちが見えない。いや、それを話題にすることが恐かった。


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