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作品名:晴れ渡る夏空 作者:全充

第8回   愛明と祐子(3)
 夏休みも折り返しの八月初め、国公立大学の対抗戦が終わり、大学陸上部もスタッフ入れ替わり前で大学陸上部としては中間オフ。とはいってもそこは個人競技、個人的に参加する大会としては大きなイベント東海選手権がある。
 三年生跳躍パートの先輩が三段跳びで出場を決めた八月末の東海選手権に向け、ミニ合宿を実施するこということで付き合うよう誘われた。
 俺も県選手権で六位となり参加の権利はあったので、寮生の江上が帰省している間、部屋(二人部屋の一角)を借り、先輩の合宿に付き合うことにした。

 その合宿二日目、朝練の後の睡眠から目覚めると、なんと部屋の中に森本さんの姿があった。
「愛明君、お目覚め?」
 これは夢だと思った。こんなとこに森本さんが居る理由がない。
「あれ?どうしてここに森本さんが居るの?」
「この部屋の山崎さんに秋の寮祭のことで相談に来たんだけど、留守みたい。机の上に『申し訳無い、急用ができました。十四時までには戻ります。』だって。それより私のほうこそびっくり。愛明君が寝ているんだもの。だいたい入り口には山崎・江上って書いてあるよ」
 寝起きなのもあって現実なのか夢なのか戸惑っていると、森本さんは続けて
「おひさしぶり、このあいだはありがとう」
 本当かなぁ。いや本当であってくれと願いながら応える。
「いや、礼をいうのはこっちだよ。ここにいるのは先輩の合宿につきあうためなんだ。江上ってのが陸上部の同期で帰省している間部屋を借してもらっているんだ」
「そう、じゃあしばらくここにいるの」
 森本さんの笑顔がはじける。
「うん今週一杯の予定。月末に東海選手権があるんだけど、七月は試合続きで調整練習が多かったから、ここで一度負荷をかけておこうって先輩が。俺も一応出る権利あるから」
「どこであるの、その大会。私観に行こうかな。夏の大会って好きなのよね。熱い陽射しに青春を感じるんだ」
 森本さんは楽しそうに語った。
「三重県松阪だけど。俺達は泊まりこみだよ。三段跳びは日曜だけど。」
「三段跳びに出るんだ」
「うん、でも県予選六位だし、出るだけかな。決勝なんて無理だろうね。先輩は決勝に行くと思うけど」
「そう。予選は午前中にあるの?」
「いや、予選っていうか、日曜の十四時スタートで、最初の三回でベスト八決めて、八人だけがさらに三回跳ぶことができるんだけどね」
「じゃあ朝出ても十分間に合うね。行ってみようかな」
 この言葉に俺もうきうきしてきた。
「森本さんが来てくれたら、ベスト八に残っちゃったりしてね。まあ奇跡でも起こらない限り無理だろうけど」
「無理なんて決め付けちゃだめよ。応援に行くから頑張って」
 俺は益々調子に乗って、思い切って昼を誘うことにした。
「ところで、もう十二時過ぎているけど、昼はすませた?」
「まだだけど。」
「一緒にどう?」



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