翌早朝、研修センタのグランドでジョギングしていると祐子がジャージ姿で散歩をしているのが目に入った。 祐子の方でも気が付いたみたいだけど、こちらから声をかけてみた。 「おはよう。昨日はよく眠れた?」 「おはよう。愛明君」 「散歩かな?」 「そう。高校の時は合宿で朝の散歩が日課だったし。今でも朝は必ず散歩しているの。今日もすがすがしくて気持ち良いね。愛明君も早いのね」 「うん。昨日走って無いから。今日は午後大学に戻ったら練習するつもりだけど、軽く刺激をと思って」 「私も付き合っていい?ジョギング」
女性は大きく見えても並ぶとやっぱり身長差は感じた。祐子も同じような感想をもらした。 「並ぶと大きいね。私も小さくはないんだけど」 「もうバレーはしないの?」 昨日から気になっていたことだ。彼女は割り切ったように答えた。 「高校で燃え尽きた。ってのはうそだけど。友達もそれぞれ違う道へ進んじゃったし、あんなに熱くはなれないと思う。私の家は母も祖母も看護婦なのね。それに高校の時に栄養と身体づくりを学んで、そういうこともっと知りたいと思って、看護学校行くのもいいかなって。母が学んだ名古屋にも来てみたかったし」 「じゃあ今回のような仕事は範疇なんだ」 「そうね。結構ためになるし、楽しいよ」 軽いジョギングとストレッチを終え、百mの流しを始めることを説明した。 彼女は一緒に走ってみたいと言ってつきあってくれた。 軽いといってもさすがに彼女にはきつかったようだ。普段から百m走りきっていない人が百m走るにはちょっと速かったと思う。 「きついでしょう。ゆっくり歩いて戻ったらすぐスタートするけど、もう一回走る?」 「えっ、戻ったらすぐ?だめ、一回休み」 なんか優しい顔つきの娘だと思っていたけど、やっぱり体育会系なのか話しのテンポが軽快で会話が楽しい。 「じゃぁ君が休んでる間に」 「どうぞ、いってらっしゃい」 そんなやりとりをしながら、きっちり一回置きに三回つきあってくれた。 「きつかった?」 「しっかりと。もう半年近く真剣に運動してないもん。やっぱり身体なまってるね」 「一人で走るつもりだったけど、一緒に走ってもらって楽しかったよ。ありがとう」 「うん、私午前の準備があるから行くね。こちらこそひさしぶりに爽快って感じ」 そういって彼女はグランドから出て行った。 午前は体力測定とか健康管理とか栄養管理の話しとかで瞬く間に過ぎ、彼女と話しをする機会も無く研修が終わった。 彼女を探して事務所を訪ねたが、先ほど講師陣と一緒に帰ったとのことだった。 それなら兎に角、彼女の連絡先だけでも教えてもらえないかと聞いてみた。 「アルバイトで来ていた森本さんにお礼を言いたかったんだけど。連絡先とか分かります?」 「いやぁ、看護学生だからね、学生寮に入っているんだろうけど。女子寮だから、本人から連絡先聞いてないとね。私達も知らないし、病院に聞いても教えてはもらえないと思うよ。国立東名和病院だけど」 とりあえず病院の連絡先を教えてもらい電話をしてみた。 しかし予想通り、看護学生女子寮の電話番号は生徒の安全を考え、部外者には教えられないと断られた。 せっかく知り合えたのに失敗したな、連絡先聞いておけばよかったと悔やんでも後の祭りだ。 東名和病院っていったら、グランドから東山公園を挟んで反対側ぐらいの所だし、まぁ縁があればまた会えるかな。 そんな機会を気長に待つしかないかと思った。
ところが再会は思ったより早かった。
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