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作品名:晴れ渡る夏空 作者:全充

第6回   愛明と祐子(1)
 祐子のバスを見送り、愛明と私は本山駅まで歩いていくことにした。
 名古屋駅の終電には十分間に合う。

「私と森本さんの話でもりあがっちゃって、愛明と祐子さんのこと聞けなかったね。森本さんって例の彼女でしょ」
 愛明は特に肯定するわけでもなく、話し始めた。
「五月に運動部新入生を対象とした体育会主催のオリエンテーリング合宿があっただろ」
 大学付属の体育センタ職員から健康管理指導、傷害時の応急処置に関する指導を受ける目的の合宿だ。毎年運動部新入生を対象に大学体育会が開催し、有志が参加する。当然のごとく愛明も参加していた。
「ゴールデンウィークの合宿ね。『テーピング知ってるか』って帰ってきたのよね」
「そのテーピングの講習で実際にテーピング実習の時間があって、俺が最初実験台として前に呼ばれたんだ。陸上部の人が一番世話になるかなってことで」
「愛明は怪我知らずだけどね」
 不思議と愛明は怪我と無縁だった。細い身体で中学の時は「もやし」だの「栄養失調」だのと言われていたのに、骨折したり肉離れしたりするのは決まってえっ!こんな丈夫そうなのにって人だった。
「指導員が説明をしながら、実際にテーピングをしてくれたのが祐子だったんだ」
 そして森本さんは看護学生アルバイトで指導員補助として来ていたんだと説明してくれた。



「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。では右足をまっすぐ伸ばしてください。右足を内側に捻挫した場合の処置を指導員が説明します」
 祐子との会話はこんな風に始まった。
 彼女は事務的な話し方だったし、しっかりしていて自分より年上に見えた。
 指導員の説明に合わせ祐子が丁寧にテーピングを終え歩いてみる。
 確かにこれなら捻挫したことを気にしないで動くことができると思った。
 一通り説明が行われた後、各自それぞれに自分でテーピングをする時間が与えられた。
 実際に自分でテーピングをしてみると結構むずかしい。
 祐子はその都度丁寧にこつを教えてくれた。
「詳しいですね。俺こんな処置があるなんて始めて知りました」
「私高校までバレーやっていて、ジャンプとか足首酷使するし、レシーブて球に飛びつくから結構怪我するでしょ。体育系大学出身の先生だったからそういうこと詳しくて、それで教えてもらったの」
 バレーか、姉貴や由美と同じだ。バレーには縁があるな。
「これきっちり覚えたんですけど。夕食後の自由時間の時もっと教えてもらえますか?」
「いいわよ。ところでえっと、あなたの名前教えてもらえる?」
「あっ失礼しました、中田、中田愛明、愛情の愛に明るいって書きます」
「あいめい?そのまま“あいめい”なの?」
「そう、そのまま、あなたは?」
「私は森本祐子、看護学校の友達からは“すけちゃん”って呼ばれているの」
「すけちゃん?、ああ祐のユウ?なるほど“すけちゃん”だ」

 そして約束どおり、夕食後の自由時間に再びテーピングを教えてもらった。
「愛明君は、陸上何やってるの、走り高跳び?」
「いや、幅跳び。三段跳びもやってます」
「背が高いし痩せてるから、高跳びかと思ったんだけど。幅跳びなんだ。私も中学のとき高跳びで学校代表になったことあるの。結構跳べたのよ。一m五十」
「それはすごいかも、中学の頃だから背面跳びなんかじゃなくて正面跳びですよね。バレーはアタッカですか?」
「そう、時々セッターもやってた。それとですます調はやめて。私も去年までは高校生」
「えっ、そうなんだ。いやぁ大人っぽいし、しっかりしてるし。てっきり年上だと思ってた」
「バレーからはいろいろ教わった。勝っても負けても何かを得られて夢中になって。愛明君はどうして陸上を?」
「何故だろう?スポーツは好きなんだけど、器用じゃないから野球とか、サッカーとかは子供の頃からあまり仲間に入れてもらえなくて。
 でもマラソンとか幅跳びとかはいつも学年で一番だったんだよ。
 小学校の時四m五十跳んで市の大会で入賞して、山田って人が三十九年振りに日本記録を更新したのが八m〇一でそれまでの日本記録七m九十八は当時の世界記録だったとか聞かされて。
 それからなんとなく八mが目標になって。
 知ってる?日本は三段跳びでオリンピック三連勝したり、幅跳びや三段跳びは結構得意なんだよ。
 それに岐阜県は幅跳び、三段跳び、棒高跳びでオリンピック選手が出ているんだ。
 そんな血が俺にも流れていないかなって願ってる」
「そう。愛明君は背が高いし、可能性あるんじゃない。
 夢はかなうものじゃなくてかなえるものよ。
 私はバレーを続けるには背がね。
 一m六十六なんだけど、バレー選手としては一m七十は超えてないとね。
 看護学校に入ったけど、スポーツに関わることが出来たらと思っているの」
「そうだね、バレーの選手って女性でも一m八十ぐらいあるよね。俺と変わらないんだよ。
 俺の知り合いにもバレーやってたけど今はやめて声楽やってるのがいる」
 由美はセッターで身長は一m六十三だけど全日本目指せる才能はあると思うんだが、あっさり辞めてしまった。
 そんな話しをしながら実際に一通りのテーピングを教えてもらったら、八時近くになっていた。
 八時からは懇親会が催されることになっていた。
「ありがとう。そろそろ時間だから、もう行かなきゃ。明日も来るの?」
「うん、午前中のセミナーの資料とか手伝う事あるから。朝早いし、今日はここに泊まるの。先生も一緒。これから明日の資料づくり手伝わなきゃ」
「そう。じゃあ明日も話しできるかな?」
「たぶん」
「お休み。今日はありがとう」
「いいえこちらこそ楽しかった。おやすみなさい」


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