私の話が一息ついたところで、祐子が切り出した。 「そしてその一年後に大庭さんと木村さんのチームが長野に来て、私は二人に出合ったということね」 祐子は話を続けた。 「あなたちのバレーは私に強烈な印象を残したの。とくに木村さんのトスワークは私のバレーに対するイメージをがらりと変えてしまったの。少々無理な体勢でも難なく処理してたでしょ。あそこまでいくにはセンスも必要だと思ったけど、皆がレシーブでボールをきっちりセッターに返す事が出来ればなんとかなるんじゃないかって。そして泰子さんのようなタフなジャンプを可能にする体力が必要だと思った」 「私たちはそんな接触があったんだ。知らなかったな。そういえば翌年の東海大会、私達は出られなかったけど、優勝は確か長野の中学だったのを思い出した。もしかしたらあれは森本さんのチームだった?」 「そう、楽しみにしていたのだけれど、残念ながら木村さんには会えなかった。私達はタフなチームを作って絶対に優勝するんだって意気込んで東海大会に乗り込んだの」 愛明が私に向かって口をはさんできた。 「姉貴が抜けてからの由美達のチームはエースアタッカいなかったもんな」 「そうね、あれだけの滞空時間と安定したジャンプが出来るアタッカはなかなかね。結局県三位で東海大会には出られなかった」 「それで由美は姉貴を追いかけて高校へいったんだよな。俺まで巻き添えにして」 「巻き添えにしたのは私じゃないわ。でもそれで高校も同じ、大学まで同じになっちゃった」 祐子が先ほどから気になっていたという口調で聞いてきた。 「愛明にとって大庭さんは幼馴染の姉って感じなのね。木村さんとも仲が良さそう」 「先輩と愛明は家が隣同士でね。先輩は早くにお母さんを亡くしたこともあって姉弟同然に育ったのね。そこへ私が割り込んだって感じ。私も先輩の家に下宿同然だったし。だから私と愛明も姉弟みたいなもの。私が三ヶ月早く生まれているから双子の姉って感じかな」 「私は一人っ子だからそんな関係うらやましいな」 「でもチームメートには恵まれたんじゃない?インターハイで見た森本さんのチームを見て驚いた。バレーをするには理想的な体型の人ばかりで」 「そうね。中学時代のチームメートが結構一緒の高校に入ってくれて、バレー部作って。でも最初のうち高校のバレーボールは私たちのレベルでは全然通用しなかったのよ」 「でもインターハイで会ったときは二年以下のチームには思えなかったな。初出場でお互いベスト十六に残ったんだけど。あなたたちのチームには感心したわ。私たちは基本的に先輩のワンマンチーム。あなたたちは全員がよく拾い、打っていた。とにかくセッターにきちんと返し、最後までタフで」 「当時とにかく長野で優勝できるまでにはなんとか。高校に入ってからかなり練習内容も食生活も変えたの」 「全員スラリとしているんだけど痩せているわけでなく、均整の取れた体型だったわね」 「教育大学を出た先生が意欲的な人でいろいろ教わったの。野菜中心にしてたんぱく質を効果的に吸収するようにとか。どの動きにはどこの筋肉が必要かとか」 「科学的トレーニングね。それで三年のインターハイはベスト四か。結果を知った時はちょっとうらやましかった」 そんな会話で私と森本さんが盛り上がっている中、驚いた事に愛明は今までなら絶対に食べなかったトマトを平気で食べていた。愛明が森本さんと遭って変わってきているのを感じた。 楽しい会話は時の経つのが早く、時計を見たら八時半だった。 名古屋の夜は早い。岐阜に帰るには十時の終電に乗らなければならない。 祐子も寮の門限が十時ということで、またゆっくり会いましょうなんて話をしながら「とにお」を後にした。
祐子は寮までバスということで、私も愛明と一緒に祐子を見送ることにした。
「森本さん、私今混声合唱団に所属しているの。今度定期演奏が十一月三日にあるんだけど愛明と来て」 「そう、木村さん声楽を本格的に始めたんだ。それが夢だって言ってたもんね」
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