北京オリンピック女子走り高跳び 優勝者ブラキッチの世界記録への挑戦は失敗に終わり、走り高跳び勝負の幕は下りた。 真理は結局銅メダルに終わったが、日本女子フィールド競技初のメダル獲得という快挙を成し遂げたのだ。 ブラキッチが客席から渡されたセルビアの国旗を身に纏いグランドに駆け出した。ウィニングランだ。 真理もスタッフエリアに駆け寄る。そして控えていた裕一から日の丸を受け取り身に纏い、裕一に抱き着き泣き崩れた。裕一が抱き寄せ肩をたたきながら何か語り掛けている。 隣で目頭をおさえながら恵さんがつぶやいた。 「祐子さんの願いが適ったわね。真理は中田さんと巡り合い、裕一さんにまで見守られていて、幸せ者ね」 真理と裕一君の喜ぶ姿は、愛明と祐子を見ているような錯覚を呼び起こした。 その姿を見守り、由美は心を決めた。恵さんも肯いてくれた。
私は祐子から二つの手紙を預かった。一つは祐子が愛明に会えなくなった時に渡して欲しいと言われたもの。そしてもう一つは愛明に渡す時はないかもしれないけど、もし愛明が真理と出会うことがあって、恵さんの許しを得られた時に渡して欲しいと頼まれていたものだ。
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この手紙を愛明が読むことはないかもしれない。愛明が真理と出会うなんてことは有り得ない。そういう道を私が選んだのだから。 恵さんが由美の従姉でよかった。安心して恵さんに真理を託します。そしてこの手紙を由美に託すことにします。 真理と恵さんは旦那さんと一緒に、実家に戻り、青森の人になる。 愛明と真理が出会うことはおそらくないでしょう。 でも、もし、万が一愛明が真理と出会い、愛明が事実を知るべき時が来たら、やはり、それを説明するのは私じゃなきゃだめだと思ってこの手紙を書きます。
『真理はどんな娘に育っているのかな。元気にしていますか。私に似ていますか。女の子は男親に似ると幸せになるというから、愛明に似ているのかな。 私も愛明の隣で真理を見守りたかった。愛明ごめんね。そして真理をよろしくね。 私は愛明に会えて、ほんとうに、ほんとうに幸せだったよ。 最後にもう一度いいます、愛明、私と一緒の時をありがとう。 祐子』
愛明は北京の晴れ渡る夏空を見上げた。 深く澄み切った蒼い空。愛明と初めて話をした時と同じ空だと由美は思った。
Forever You 〜永遠に君と〜
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