真理がクールダウン後ストレッチをするのを待って再び話しかけた。 「実業団には所属しなかったの?」 「どこからも声かからなくて、今大久保にあるスポーツクラブでインストラクターやってるんです。ただ高跳びの夢は追いかけたくて。遠藤さん、うちの大学のOBなんですけど、相談したら、ここでやればいいって」 「そう。遠藤は学生時代、大学は違うし種目も違うけど何故か気が合ってね。僕も遠藤に誘われて昔ここで練習して、試合に出ていたんだ」 「そうなんですか。あの、間違っていたらごめんなさい。中田さんって名和大のOBじゃないですか?だったら木村由美ってオペラ歌手ご存知ないですか?彼女は名和大の卒業で遠藤さんと同じ学年なんです。」 「君はどうして木村由美を知っているの?」 「母が由美さんの従姉なんです。」
「えぇっ、君、由美の..... そうなんだ。由美からは彼女は僕の幼馴染でね。中学、高校、大学とずっと一緒だったんだよ」 「やっぱり。 さきほど幻のオリンピック三段跳び代表って聞いたとき、もしかしたら由美さんから昔聞いたことのある男性(ひと)かなって思ったんです。由美さんいってました。なんか中学からずっと学校一緒で異卵生双生児の弟みたいな男性だって」 「異卵性ね。確かに姉弟(きょうだい)のようなもんだけどね。」 同じようなことをサンセットのマスタがそう言っていたことを思い出した。
由美は今はドイツで暮らしている。活動の拠点がヨーロッパということもあるが、夫の江上がドイツのマインツ大学でドイツ文学の客員教授をやっていてドイツに移り住んでもう十年以上になる。 「そういえば、由美さん六月に一度日本に帰ってくるって母がいってました。中田さんも由美さんも実家は岐阜なんですよね。その時一緒に会えたらいいですね」 由美。最後に会ったのはドイツに行く前、祐子の十三回忌の時だ。 昨年祐子の二十五回忌、由美は今回はどうしてもコンサートを外せなくて、申し訳ないと悔やんでいた。
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その日以来時折、愛明は真理の練習を見るようになった。 真理は今まで走り込みの量が少なく、走りの基本ができていないと感じ、とにかく走りこませた。 一本でも多く走りこんで、走りのフォームを固めることが先決、助走にスピードを取り入れるのには時間がかかりそうだった。 それでも、スピードを生かすリラックスした助走の回り込みに関しては比較的すんなりものにし、以前より安定した跳躍ができるようになっていった。
そんな中、由美からメールが届いた。 『愛明、真理から聞きました。今、真理に助走を指導してくれているんだって。 おかげで高二以来の一m八〇どころか、一m八〇ならいつでも跳べるようになったって喜んでいました。 しかし、まさか真理が愛明と出会うことになるとは。 最も真理が東京に出たときから、陸上続けてればもしかしたら出会うかもと思ってはいました。 それから、遅くなりましたが六月に帰ります。祐子の二十五回忌、残念ながら出られませんでしたが、名古屋のお墓参りに行こうと思います。その時真理と真理も連れて行きます。 愛明覚えていますか。あの日、病院の屋上で恵さんが、新しい命は希望を与えてくれるのよって愛明に抱かせた赤ちゃん。その子が真理です。 真理と愛明は既にその時出会いをすませているの。強い運命の糸に結ばれているのかもしれないね。 ではドイツを経つ日取りが決まったら、また連絡します』
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