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作品名:晴れ渡る夏空 作者:全充

第12回   祐子入院
 祐子は愛明との時間を一番に考えていた。
 試合がない土日は貴重な時間として愛明のために空けていた。
 そして愛明が試合のある日曜は私と会っていることが多かった。
 愛明は祐子の食事管理のおかげで、下半身に比べ貧弱だった上半身がしっかりするとともに、記録を飛躍的に伸ばしていた。
 三年の全日本インカレでは十六Mを確実に越えるまでになっていた。
 当時の三段跳びは学生陣が全盛のためあまり目立たないが、日本でも上位に位置し、オリンピックを狙えるレベルに達しているといってよかった。
 祐子は愛明と過ごすことができるため、夏が前よりも好きになったと言っていた。
 大学関係の試合は七月で終わり、八月以降は合宿を除けば、十月末までは個人的な試合ばかりでほとんどの時間愛明と一緒にいられると喜んでいた。
 しかしそんな祐子に思わぬ事態が待ち受けていた。

 モスクワオリンピックイヤーがすぐそこまでに迫った十一月、祐子が突然高熱を出し倒れ入院したという連絡が看護学校の知り合いから入った。
 愛明はキャプテンとして今年こそ駅伝で全日本出場をと意気込む長距離部員とともに土日は試走につきあっていたため当日は連絡がつかなかった。
 ともかく容態が気になり私一人でもと見舞いに行った。
 病院で会った祐子は意外に元気で、自分の容態より愛明にモスクワオリンピック出場の可能性が出てきたことを嬉しそうに話してくれた。
 愛明はその年の全日本インカレで最後のジャンプは失敗に終わったが、ステップの着地点が十一Mを超えていたという。
 愛明はいつも前の年にはかならず次の可能性を暗示する跳躍をしてきた。来年はもしかしたら十七M跳んじゃうんじゃないかと説明してくれた。
 祐子があえて自分の症状に触れようとしないので、私は話を遮った。
「祐子、大丈夫なの?突然入院したって聞いてびっくりして飛んできたのよ。愛明は知多で駅伝の試走につきあってるから連絡着いてないの」
「なんかウィルスに感染しちゃったみたいだって先生がおっしゃってた」
「で?たいしたことないの?」
「まだわからないって。先生も徐々にウィルスの繁殖を押さえていくしかないって」
「そう。早く元気になるといいね」
 祐子の態度が無理して明るく振る舞っているようにも感じられたが、先生も「時間はかかるかもしれないけどオリンピックには応援にいけるように頑張って直そう」と祐子に説明しているとのことで、今は様子を見守るしかないと思い、祐子から定演の感想を聞いたりしながら時を過ごし病院を後にした。


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