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作品名:晴れ渡る夏空 作者:全充

第1回  
 北京の晴れ渡る夏の空、真理がマットの上に立ち上がり歓喜の叫びとともに第二コーナスタンドに向かって手を振る。
 スタンドから愛明が真理に何か叫んでいる。その隣には私の従姉で真理の母、恵さん。私は涙で声にならないまま手を振り返す。
 (祐子、あなたの夢とは違うけど、愛明じゃないけど、真理が輝いているよ。おめでとう。でいいんだよね。あの時、あなたはこんな場面も、思い描いていたのかな?)
 北京オリンピックの女子走り高跳び、バーの高さ二m〇三をクリアしたのは真理を含め三人。日本女子走り高跳び念願のメダル獲得は確定した。私達はそんな歴史的瞬間の真っ只中にいる。
 真理は一九八〇年生まれの二十八歳。いわゆる松坂世代。いや陸上競技では末様世代と呼ばれている。二百mの末續真吾を筆頭に、百十mH内藤真人、棒高跳び澤野大地、走り高跳び醍醐直幸、女子走り幅跳び池田久美子、女子砲丸投げ森千夏(残念ながら二〇〇六年八月十一日虫垂がんで亡くなるが二〇〇四年アテネオリンピックで女子投擲種目として東京オリンピック以来の出場という快挙を達成している)。よくこれだけの世界レベルの選手が同一学年に揃ったものだ。そんな逸材がピークを迎えた北京オリンピック、走り高跳びのピットに立つ真理をどんな思いで愛明は見つめているのだろう。

 真理は名古屋市の国立東名和病院で産まれた。同じ年の六月、私の親友で同病院の看護学生だった祐子は当時めずらしいウィルス性の病気でこの世を去った。私の幼馴染であり、彼女が一番大事な男性(ひと)と宣言し愛した愛明のオリンピック出場を信じて。


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