マンションのベランダで一人煙草を吸う女。
アカネは普通のの大学生だった。 週末になったら仲間と一緒に飲みに行き、煙草を吸う。 今の女性が煙草を吸うのは一般的になっているのかもしれない。
だが、最近は煙草も部屋では吸わなくなった。 部屋に煙草の匂いがつくと何かと面倒なことになる。
最近、アカネには彼氏ができた。 酒も飲まない、煙草も吸わないできすぎたような男。
その男は煙草の煙を妙に嫌がった。 普通の煙草を吸わない人なら解るかもしれない。 当時喫煙者のアカネには非喫煙者の心境が解らなかった。
でも、アカネはその男が好きだった。 顔が広くて、みんなに優しくて、でも自分にだけは「俺の彼女だから」と人一倍優しく包んでくれた。 なによりも、自分のようにふがいない女を好きになってくれた。 彼に見合う女になりたくて、周りに「煙草をやめる」と言いまわった。 料理も勉強して、彼にふるまった。 掃除もきちんとするようになった。
だが、結局は煙草をやめなかった。 これでいいのかと思いながらも、ベランダで空を見ながら煙草を吸うのが日課になった。
「煙草はやめられない」
そう言われればそれまでかもしれない。 でも、その言葉とは違う何かがあった。
料理をふるまい、服にも気を使うようになった今、自分が自分じゃなくなったような気がした。 この煙草を吸い続けることによって、今までの自分の意義を存在し続けるため。 または、それを言い訳にしたかったのかもしれない。
今日も夜空を見ながら彼女は煙草を吸う。 星も見えない大都会で、必死で自分の存在意義を問う。
いつまでこの嘘が続くかわからない。 今の自分が、いつこの煙とともに消えてしまうかわからない。
彼女は考える。
今と昔、どちらが本当のワタシ?
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