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作品名:新宿アルタ 作者:山野 高雄

第2回   2
私は新宿東公園の清掃を終えた元医学浪人生に聞いた。
「新宿区役所の方ですか」
「東公園管理担当の渡辺です。何の用事ですか」
「毎日、ご苦労様です。ところで、私を覚えていませんか」
「・・・分かりませんね」
「30年前、新宿地下道のフォークソング集会で花束をもらったことを覚えていますか」
「それなら覚えています。私はあの時以来、美枝子さんと会いたくて、毎日フォーク集会に行って随分捜したが、会えなかった。今でも是非会いたいと思っています」
「美枝子さんを見つけるために、この公園に住み着いているのですか」

急に渡辺が考え込んだところに、区役所職員が2人来た。渡辺とよく似た作業服を着ているが、新宿区役所の文字の下に職員氏名が書いてあった。
「おはようございます。毎日の清掃、ありがとうございます」
区役所職員2人が口をそろえて言うと、すぐに立ち去った。

渡辺は3浪で医学部に合格し、医師国家試験にも合格した。脳外科医として、大学病院に5年間勤めた。
「脳溢血や脳梗塞は、適切な手術で救命治療はできる。しかし手術のあとリハビリを1年間続けても、以前の生活に戻ることのできるのは3%以下。残り97%は、杖を頼りに散歩のできる程度までしか回復しない。言葉に障害が残る。家族は、手術直後には、生命だけでも助けていただいてありがとうございます、なんて感謝するけれども、退院してからは看護が面倒で、病院で死んでもらった方がよかった、と思うようになる」
「たとえ3%でも、生命が助かれば、社会的な貢献になりますが」
「それはつまり、97%の治療がムダである。病院の総力をあげた治療の97%がムダに終わることは、むなしいものです」
私と渡辺の会話は、そんなものであった。外科医として人命の救助に消極的なのか、聞く時間がなかった。渡辺は駅の時計を見ると、朝飯の時間、と言って、新宿駅方向に急いで行ってしまった。


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