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作品名:迷路の戦士 作者:砂野徹

第6回   6

○ネコ隊着地○

ふたりの消防車は虫ビルのほぼ真上の道路で止まった。ネコと二機のMDは
柵を飛び越えて10メートルほど下の屋上へ下降する。MDは同型ではないが
二機とも頭部は前後に長い直方体で、スリバチを(頭ではなく)顔に
かぶった形状で中央に大きなカメラレンズがある。後頭部にも小さな眼がある。
一機は眉間から銃身が伸びており、他方は耳のように両側面に銃身を立てて
いる。これは前後に回転する。このチームではこの単銃頭がアヤメ、双銃が
アザミと呼ばれている。本来は布状覆いや硬質プロテクターをまとうのだが
今回はすべて外しており細身だ。薬剤ボンベではなく飛行ユニットを背中に
装着し、胸部も着替えたため胸中央にノズルがある。足は靴を脱いで、細身の
メカが露出している。足裏には靴底と同じ素材を貼ってある。アヤメは自分のと
同じ胸・頭部を両手で持っている。

屋上ではスミレとトンボAが待っている。スミレは胸部外装と膝や肘などの
覆いを外しスマートな姿で、今自分の頭を引き抜いたところだ。電子頭脳は
胸にある。ネコたちは着地し、スミレはアヤメから新しい部品を受け取って
装着すると、ライフルも受け取った。40センチほどの本体に短い銃身が
付いた、細いハープのような印象の武器だ。アヤメはこれを両肩の目立たない
突起につないで運んだのだ。アザミのだけは四角い別の型だ。ネコは
ライフルを持っていない。敵に飛び道具がなく攻撃力は小さいからだ。
ライフルを備えるとリーパーとしての運動性が落ちるのだ。アザミ本体も
単銃MDより胸部が前後に厚く、胸部ノズルが大きく角度可変。腰部も幅広く
股間にもノズルがある。戦闘にやや特化した機体である。トンボDがここに
追いついた。(速く下降することができない)
「トンボは前後10メートルに散開、銃は連発にセットしろ。
 奴が現れたら即座に撃て!」
ネコの指示どうりネコ隊は狭い階段を下りてゆく。トンボA・スミレ・アヤメ
・アザミ・ネコ・トンボDの順に。アヤメの顔には小さくアクセントが入って
おりこれでスミレとの見分けがつく。階段の下で汚れた姿のセフキープ4号が
出迎えた。
「イラッシャイ」
そのとたん背後の壁が
ズドッ!
という音とともに部分的に崩れ、天井近くの位置から砂塵が噴き出した。
「出タッ」
その壁自体は彼らからは死角で、斜め下に向かって流れる砂煙だけが見える。


○ヒョウ隊もビル内へ・ウォーカ到着○

死角と言っても目と鼻の先の角を曲がったところだ。空機MDはバーニアを
噴かして一瞬にそこへ回りこんだ。スミレ、アヤメ、アザミと続いて。
「早ク撃ッテ!」
「まだ現われていない」
アザミがセフキープに冷静に応えた。そう、ビルイーターはまだ壁の向こう
にいるのだ。ネコの〔奴が現われたら撃て〕と言う指示には、隠れている
ところへ踏み込んではならないという意味がマニュアル的に含まれている。
ビルイーターは壁を崩したのだからこちらへ出てくるはずだ。そこを撃とうと
花トリオは銃を向けていた。しかし、
シュボウム!
と黒い気体が壁の穴から噴き出した。煙幕である。

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一方、同じ頃、ヒョウと野菜トリオもビル内に突入していた。ネコ隊を屋上へ
飛ばしてからビル立地階面まで車で坂を降りたのだ。消防男は携帯丸ノコで
玄関を切り開いておいた。こういう道具は救助活動用に消防車が備えている。

野菜と花は別型のMDである。いろんな型があるのはMDという機械種が
まだ熟成されておらず小さな試行錯誤が残っているからだ。ヒョウのMD隊も
やはり双銃がリーダーで単銃同型二機と合わせたトリオだ。
「甲羅は上から狙え。着弾角が深くなる。トンボは前後5メートルに散開」
4隊のチームは玄関目指して10メートルほどの歩幅で滑るように走る。
体重を消す程度に推力を使って効率よく移動するのだ。トランク二個分ほどの
直方体が彼らの後を追う。四輪車だが、折りたたんだ細い脚も見える
ヒョウはライフルを持っていないが、短銃を肩中央に装着している。玄関の
中では煙幕で汚れたセフキープ1号が待っていた。
「ツノガアルヤツガデマシタ」
胸の四角いスジ彫り部は下辺を支点に開いて、キーボードとモニターが
あらわれている。そこには甲羅に5本のツノがあるビルイーターが映っている。
しかしヒョウは止まらずに、
「同行しろ」
とだけ言った。

その時、軍のトラック部隊が轟音とともに到着した。後部の塀がばたりと
開いて、ざっくざっくと〔ウォーカ〕が歩いて下りてくる。人間サイズの
下半身に二連装備機銃を載せたロボット歩兵である。トラックの塀が銃身を
隠しきれなかったのは、たくさんつめて載るためにそれを垂直に立てて
いたからだ。

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ビル内。一階。
ヒョウ隊のトンボが
「発見!」
と叫ぶ。牛ほどのビルイーター。背にツノは無いが弾痕も無いから
最初に現われた個体ではない。ヒョウ隊MDは一斉に射撃したがヒョウは
すぐに
「止めッ」
と制した。白い砂煙に包まれたビルイーターは、最初からちっとも動いて
いなかったのだ。
レタス「元々死んでたみたいですね」
セフキープ「寿命ガ一日グライデ産卵済ミナノデショウ。小型ガ雄デ、
ツノガアルノガ中性ナノカモシレマセン」


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