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作品名:迷路の戦士 作者:砂野徹

第3回   3

同時刻。
地下室。
ライフボックスの中でモクドがマグロのように眠っている。
「ぐうぐうぐう」

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ビルの外。

消防
「ボンベの搬出はセフキープにまかせる。
 ただしガス漏れがあれば直ちに連絡せよ。むろん火気厳禁であるから、」
一同声をそろえて
「おーい火炎隊!」
「なんだー?」
「状況を説明する」

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同時刻。
或る公園の巨大な街頭テレビに女子アナウンサーが映った。
「臨時ニュースです!要注意事態第二級!
 RK31地区の環境生物研究所、通称虫ビルで、
 新種害虫が発生しました。現在ミラクルプラス社を中心に
 対策がとられつつあります。見物に集まることは禁じられました」
公園の人々は映像を見ようとぞろぞろ集まってきた。
画面にミラプラ親父が割り込んで喋りだした。
「当社のメカドール[セフキープ]が作業します」
メカドールとはこの時代の人型ロボットの総称である。
女子アナ(押しのけられながら)
「ビルの内部を加熱するんですよね」
ミ「当社の広域暖房機[リトルサン]を使います。ドーム球場に一個で
最大温度上昇50度です。とりいそぎ当社の殺虫剤[デミスト]で」
「まるでミラプラ劇場だな」
ベンチでうどんをポップコーン式にふくらました、かさばるお菓子を
大きな袋から食べていた若い男がつぶやいた。

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同時刻。
セフキープが燃料ボンベをごろんごろんと転がしてビルの外へ
次々に運び出す。
セ「6本トモ無事デシタ」
細長い男、空間長
「遅かったな」
セ「けーぶるが不安デえれべーたーヲ使エナインデスヨ」
消防「これで安心・・・」
消防と空間長、同時に「ではないなあ」
空間長
「いまひとつ話がわからん!リトルサンもセフキープが使うなら
 デミストの霧が消えるまで待つことはないだろう」
記者・女子アナ
「あっそういえば・・・」
ミラプラ息子
「いえその・・・じつはリトルサンは量産に入っとらんのです
 今一個ずつ作っているので時間が・・・」
消防
「とにかく急ぐんだ!もし虫が外に漏れて、
 繁殖したら・・・!」

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同時刻。
公園。
テレビ「このニュースは外装工事が終わった時・・・
午後6時ごろにもう一度お伝えします。臨時ニュースを終わります」
若い男はベンチから立ち上がり、菓子袋の口をぎゅっとねじって閉じ、
考えた。
〔するとデミストが消えるのはそのあと・・・夜中だから、
 俺の出番があるなら明日の朝だな〕


○デミスト始動・塀の建設・陽は傾いて○

ビルの外。
「デハ我々ワ持チ場へモドリマス各階一機」
セフキープ4機は縦に並んでビルへカチャカチャと帰ってゆく。
「虫食いビルは加熱でどこか破れるかもしれん」
用心深い空間長は腕を組んで考える。
「ミラプラのキャッチフレーズは[臨機自在]だったな」
「そうです。無敵建材臨機自在」
「高い塀でビルを囲め。代金はこの区が払う」
「ハイッ!」
ミラプラの二人は嬉しそうに走ってゆく。

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ビルのコーティングは完了した。半車両的ロボットたちは
機材を片付ける。一機の小さめのロボットがビルの壁の電話
(コーティングを避けるためカバーしてあった。カバーには中和剤を塗布)
を操作して
「各階セフキープ聞こえるか。コーティング完了した。デミスト始動せよ」
と告げるとそれは各階廊下壁の電話の声となった。
セフキープはそれぞれ一個のデミストを床に寝かせていた。彼らは
「了解」
と応え、デミスト上面の蓋を開く。そこのテンキーにパスワードを
打ち込むとさらに小さな蓋が開きボタンが現れる。それをパコンと押した。
一階・二階・三階・四階のそっくり同じ廊下で同時に。
するとデミスト側面に刻まれた幾多の線状溝から白い濃密な煙が
見る見るうちにあふれ出し、勢い良くもくもくとひろがってゆく。

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ミラプラの二人は新しい作業車で再来した。作業車はそれ自体ロボットで、
長大な腕を何本も備えている。無人トラックが何台か従っており、
板・・・一メートル四方で四辺の厚み20センチの板を満載している。
板の四辺には接合の細工がある。これを組んで塀と成すわけだ。またしても
騒がしい工事が始まった。秋の陽は傾いて、男たちの影は路面に長い。
腕を組んだ空間長は消防男と話し合う。
「ヘタをして虫が外へもれた場合、それが夜ではまずい」
「調査は朝になってからですな」
研究員たちはこの展開を見越していたのか、早い段階で姿を消していた。
防衛戦隊は標識のように静かに立っている。[夜戦]の対応も抜かりないはずだ。
各機が強烈なライトを備えているのかもしれない。


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