同時刻。 地下室。 ライフボックスの中でモクドがマグロのように眠っている。 「ぐうぐうぐう」
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ビルの外。
消防 「ボンベの搬出はセフキープにまかせる。 ただしガス漏れがあれば直ちに連絡せよ。むろん火気厳禁であるから、」 一同声をそろえて 「おーい火炎隊!」 「なんだー?」 「状況を説明する」
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同時刻。 或る公園の巨大な街頭テレビに女子アナウンサーが映った。 「臨時ニュースです!要注意事態第二級! RK31地区の環境生物研究所、通称虫ビルで、 新種害虫が発生しました。現在ミラクルプラス社を中心に 対策がとられつつあります。見物に集まることは禁じられました」 公園の人々は映像を見ようとぞろぞろ集まってきた。 画面にミラプラ親父が割り込んで喋りだした。 「当社のメカドール[セフキープ]が作業します」 メカドールとはこの時代の人型ロボットの総称である。 女子アナ(押しのけられながら) 「ビルの内部を加熱するんですよね」 ミ「当社の広域暖房機[リトルサン]を使います。ドーム球場に一個で 最大温度上昇50度です。とりいそぎ当社の殺虫剤[デミスト]で」 「まるでミラプラ劇場だな」 ベンチでうどんをポップコーン式にふくらました、かさばるお菓子を 大きな袋から食べていた若い男がつぶやいた。
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同時刻。 セフキープが燃料ボンベをごろんごろんと転がしてビルの外へ 次々に運び出す。 セ「6本トモ無事デシタ」 細長い男、空間長 「遅かったな」 セ「けーぶるが不安デえれべーたーヲ使エナインデスヨ」 消防「これで安心・・・」 消防と空間長、同時に「ではないなあ」 空間長 「いまひとつ話がわからん!リトルサンもセフキープが使うなら デミストの霧が消えるまで待つことはないだろう」 記者・女子アナ 「あっそういえば・・・」 ミラプラ息子 「いえその・・・じつはリトルサンは量産に入っとらんのです 今一個ずつ作っているので時間が・・・」 消防 「とにかく急ぐんだ!もし虫が外に漏れて、 繁殖したら・・・!」
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同時刻。 公園。 テレビ「このニュースは外装工事が終わった時・・・ 午後6時ごろにもう一度お伝えします。臨時ニュースを終わります」 若い男はベンチから立ち上がり、菓子袋の口をぎゅっとねじって閉じ、 考えた。 〔するとデミストが消えるのはそのあと・・・夜中だから、 俺の出番があるなら明日の朝だな〕
○デミスト始動・塀の建設・陽は傾いて○
ビルの外。 「デハ我々ワ持チ場へモドリマス各階一機」 セフキープ4機は縦に並んでビルへカチャカチャと帰ってゆく。 「虫食いビルは加熱でどこか破れるかもしれん」 用心深い空間長は腕を組んで考える。 「ミラプラのキャッチフレーズは[臨機自在]だったな」 「そうです。無敵建材臨機自在」 「高い塀でビルを囲め。代金はこの区が払う」 「ハイッ!」 ミラプラの二人は嬉しそうに走ってゆく。
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ビルのコーティングは完了した。半車両的ロボットたちは 機材を片付ける。一機の小さめのロボットがビルの壁の電話 (コーティングを避けるためカバーしてあった。カバーには中和剤を塗布) を操作して 「各階セフキープ聞こえるか。コーティング完了した。デミスト始動せよ」 と告げるとそれは各階廊下壁の電話の声となった。 セフキープはそれぞれ一個のデミストを床に寝かせていた。彼らは 「了解」 と応え、デミスト上面の蓋を開く。そこのテンキーにパスワードを 打ち込むとさらに小さな蓋が開きボタンが現れる。それをパコンと押した。 一階・二階・三階・四階のそっくり同じ廊下で同時に。 するとデミスト側面に刻まれた幾多の線状溝から白い濃密な煙が 見る見るうちにあふれ出し、勢い良くもくもくとひろがってゆく。
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ミラプラの二人は新しい作業車で再来した。作業車はそれ自体ロボットで、 長大な腕を何本も備えている。無人トラックが何台か従っており、 板・・・一メートル四方で四辺の厚み20センチの板を満載している。 板の四辺には接合の細工がある。これを組んで塀と成すわけだ。またしても 騒がしい工事が始まった。秋の陽は傾いて、男たちの影は路面に長い。 腕を組んだ空間長は消防男と話し合う。 「ヘタをして虫が外へもれた場合、それが夜ではまずい」 「調査は朝になってからですな」 研究員たちはこの展開を見越していたのか、早い段階で姿を消していた。 防衛戦隊は標識のように静かに立っている。[夜戦]の対応も抜かりないはずだ。 各機が強烈なライトを備えているのかもしれない。
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