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作品名:迷路の戦士 作者:砂野徹

第2回   2

○○消防車・ビルイーター・セフキープ○○

そこへ一台の消防車が到着した。タンクと勇ましい放水器を備えた兵器の
ような趣のマシンである。中から一人の男と一機のアンドロイドが降りて
走り寄る。男は耐熱ガウンではなく作業屋風の服、35才ぐらいで軽快な
身のこなし、小さな目は精悍につりあがり短髪は黒々としておりベテラン
スポーツマンといった感じだ。アンドロイドは男と同じく身長175センチ
ほどで、体のラインは警察ロボットよりは微妙で生物的、細身でもあり、
スカート状のカバーのほか腕の付け根と膝にも布的な覆いを付けている
のでかなり人間に近い印象である。ただし頭部は寸断したヘチマを立てた
ような形にカメラレンズの単眼で怪物みたいだ。塗装はクリーム色で、
腕と脛だけが鈍い紺のような暗色である。消防男は人々の輪に加わると、
記者の一人に
「ここまでのやりとりを倍速で聴かせてくれ」
と頼んだ。

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同時刻、ビルの一室の床が砂状に変化して、そこからネズミほどの
節足動物が這い出した。ビルイーターである。コガネムシ型の胴に6本の
足、胴前方にとんがりが盛り上がっていて、そこには目がある。口は
その顔とは別に、体の先端からホース的に伸びて、先っぽにクワガタ的な
一対の牙がある。そいつは何を求めてか床を這ってゆく。その部屋の
ドアは開いており、廊下を歩くロボットの足が見える。一体、二体、三体、
四体だ。4機のセフキープが足並みをそろえて精密に同じ速度で廊下を進む。
警察ロボットと同様に積み木のような形状だが、より大雑把な姿である。
警察機は胸・腹・腰が分割可動式だが、セフキープの胴は一体で硬直して
いる。胸中央に長方形のスジ彫りがある。腹には大きく番号が書いてあり、
その順に1・2・3・4と並んで歩いてゆく。番号の色は黒、他は
うすみどり一色である。頭部は細い円筒に単眼。円筒は垂直に接合されて
おり回転はするが胴部に対して屈伸はできない。両肩に醤油差しのような
突起がある。

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同時刻。
ビルの外。
ミラプラ「なぜ消防が?」
消防「火器使用の際は連絡が入る。
・・・しかし報道の方が早いとは?」
記者「呼ばれたんですよ特ダネがあるって」
そこへ新顔が現れて小走りにやってくる。
背の高い顔の長い痩せた、50才ぐらいの背広男だ。
「何事かね」
一同は声の方に向いて言った。
「あっ空間長」

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○○地下室・空間加工士・デミスト○○

同時刻。
ビル内。
うすみどりの単純ロボット、セフキープ4機は縦に並んで地下室への階段を
下りてゆく。腹番号[1]が階段を降りきる前に安物の合成音で発声した。
「でみすとワドコデスカ」
「その隅に重ねてある円盤だ」
寝転んだまま一隅を指差して応えた男は空間加工士のモクド・ケン(木土建)
である。胸と腕にポケットのついた灰色の作業服を着て、細長い敷物の上で
床に腹ばいになってノートパソコンを使っていたようだ。身長180センチで
馬のような顔、いいかげんに伸びた髪が好き勝手な方向に開いている。
地下室は6×8メートルで、階段は短辺のまんなかにあり、モクドは部屋
中央よりやや奥にいる。床の3割ほどを資材や機材が占めている。天井全体が
光っており部屋は明るい。デミストは殺虫剤である。
「すぐ使うのか?」
モクドは半身を起こして尋ねた。
「4時間後デス。モクドサンモ避難シテクダサイ」
一番機はデミストをごろごろと回して移動し階段で待つ二番機に渡す。
「俺は眠ろうと思ってたところだ。ライフボックスに入るよ」
「大丈夫デスカ?」
「塗装霧や凝固ガスに対応して作られてるんだ。機密服も酸素もある」
ライフボックスは小型車ほどの退避箱である。モクドがセフキープに
「デミストのパスワードは841309」と
教えると、足元の、単椀をそなえた台車のようなロボットが
人間の声で
「パスワード開示確認」
と応えた。小型中型のメカは他にもあり、今のところ沈黙している。


○○引火物を運び出そう○○

同時刻。
ビルの外。

消防「図面を」
「はい」
部下ロボがトランプの倍ほどの電子帳を渡す。
「24メートル四方、高さ16メートル4階建て地下室あり・・・」
記者「ミラクルプラスとバイオ研究所の関係は?」
ミラプラ「ああそれは・・・」
消防「研究所は傘下団体だなここに書いてある。実験室に引火物が
あるなあ。これは・・・あー、研究員!」
「はあい」
ペンギンに似た顔のやや若い男が応じた。
「この薬品どうした?」
「すべて運び出しました」
「他の階に燃料ボンベが6本ある」
ミラプラ息子「あ・・・」
親父「しまった!」
父(息子に)「運び出させろ!」
ミラ息子は駆け出す。
消防「ガス探知が先だ」
消防ロボ「ボンベが食い破られている恐れがありますから」
ミラ父(空間長に)「ガスの探知機ならセフキープにも・・・」
空間長「ダメだ。消防署に指揮権を与える」
ミラ息子は立ち止まって振り返ったが無言である。
空間長(消防に)「空機隊(空間機動隊)を使いたまえ」
消防「はッ。」

野次馬
「聞こえたかい空機隊だってよ」
「猫科コンビの活躍がまた見れるかな」

この間にもビルのコーティング作業は進行している。
四方の柱はロッド式に延びたものだから、除々に縮めることで
全面にコーティング材を噴き付けられるのだ。
空間長「あとどれぐらいかかる?」
ミラ父「4時間ぐらいです」
ペンギン男
「大丈夫ですよ4時間ぐらい。彼等にとってビルは食料のかたまりです。
 性急に外へは向かわない」


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