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作品名:迷路の戦士 作者:砂野徹

最終回   13

ビルの外。
軍人
「昨日以前から改築をしていたんだな?
 何を変えたんだい」
モクド
「研究室を上に伸ばした。一階北面にあるんだが、
 天井を切り外して四階まで。
 (研究員に向かい)あのサザエみたいなのは何だい」
研究員
「リトルサンです。ビルの温度を50度上げます」
モクド
「エッ!!そんなことしたら
 タウンイーターが冬眠から覚めるぞ!」
研究員三人声をそろえて
「あーっ!
 しまったぜんぜん気づかなかった。
 早く標本にしておけば良かった・・・・」その時、

ゴキッ!
ガガガガ・・・

と不気味な音がしてビルの北壁面に数メートルの亀裂が走った。
玄関側からは見えないが音だけでも意味は明らかだ。軍隊長が
「全軍ビル南面へ!」
と指令するとボンベロボットの火炎隊と歩行機銃のウォーカたちは
駆け足でドカドカと集まってくる。消防のメンバーは消防車に
走ってゆく。
「あとはまかせたぜ!」
テレビの記者も自分たちの車へ走ってゆく。中継は隣接ビル内部班に
任せよう。研究員たちは呆然としていたがようやく塀の外へ向かって
走り出した。
「なるべく形を壊さないで殺してくださいね」
「贅沢いうな!」
ビル北面は雛が生まれる卵のように亀裂が広がり、

ズゴッ!

と一点が砕片を噴き出すとそこに電柱ほどの太さの脚が突き出した。
そして壁は大規模に分解し、崩れ落ちた。

ドドドド!!
ガラガラガラ。

全壊に近い。
タウンイーターはロボットのビルイーターとは違って細長く、胴は
三節に分かれている。象三頭を縦につないでさらにふたまわり大きく
したぐらいだ。最前節上面にはビルイーターと似たような頭部が生えて
いる。ビル北面の内側を這う形でタテに収まっていたのだ。そいつが今
壁を倒して動き出した。コンクリの粉塵であたり一帯もうもうたる白い
煙に満ちている。塀は越えられる高さだろうが、まず楽に進める通路を
選ぶだろう。
「中途半端な攻撃で塀の外へ逃がしてはならない。 
 ひきつけて、腹の下へ潜って撃つ。
 火炎隊は特攻態勢で後方で待機」
ゴウンゴウンと重い足音を響かせて奴は玄関左側の側面を歩いてくる。
火炎隊は逆側へ後退する。ウォーカ隊は玄関面中央で、中腰で敵を
待ち構える。砲車ビートルは塀の出入り口の外で砲身を光らせる。
白煙の中から紫の太い水流がウォーカ隊を襲った。タウンイーターが
頭部先端の穴から噴き出したイレーザーミストである。これは風化促進剤と
ほぼ同じ成分なのだ。セフキープ2号はその光景を屋上から見ていた。
状況を知るためにそこに昇ったのだ。紫の水流の勢いは弱く、空中で広がり
降下してウォーカ隊を包んだ。精鋭ロボット歩兵はみるみるうちに錆の塊と
なって朽ちてゆく。隊長を乗せた軍トラックも風化しつつ錆の飛沫を
撒き散らしながら後退し、塀の外に逃れた。タウンイーターはこれを追ってか、
そちらに向かって踏み出した。
「塀ノ外ヘ出ルツモリダナ」
セフキープ2号は屋上から巨虫めがけてダイビングした。
「人間ヲ守ル」

ガッキーン!

命中したもののタウンイーターの背中は丸いためセフキープは浅くはじかれて
塀の出口方向に飛んで地面に激突、そこで爆発した。推進剤の暴走で直径
3メートルほどの火球に。

タウンイーターは炎を避けて進路を変えた。火炎隊の方へ。
4機のボンベロボットは移送用台車に揃って乗っていた。タイヤをきしませて
それはダッシュし、タウンイーターの胴の下で急ブレーキをかけて止まった。

ギギギギギャギギー!
グワラン!

勢いあまってボンベたちはひっくりかえったが台車の柵をつかんでいたから
留まった。タウンイーターはあとずさって敵を見ようとしたが
その移動は鈍重だ。

ボンベロボは自爆した。
鼓膜を破らんばかりの音響とともにビルと同じほどの火柱が立ちのぼった。
バラバラになったタウンイーターとともに。

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こうしてビルイーター事件は二日で終わった。
ミラクルプラスは倒産したがその技術は
空間管理局の所有となり
現在も研究が続けられている。





                  ----完----



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