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作品名:迷路の戦士 作者:砂野徹

第10回   10

○罠・抜け殻○

一階廊下。
アザミ「今の大爆音は推進剤の暴発ですね」
ネコ「アヤメがやられたかな」

アヤメは四階から屋上へ出口に向かい上昇している。
なによりも外部へ連絡するためである。霧散する前の
イレーザーミストに触れたため全体にいくぶん傷んでいる。
「根本に嘘がある。それにあのガスは禁制品の風化促進剤だ」
偽物の障壁をライフルで連射し破るとたちまちそのガスが
噴出した。
「しまった罠だ!」

同時刻。
一階。
ビルイーターの抜け殻が廊下にぎっしり、十個ほど並んでいる。セミの
抜け殻同様背中が縦に割れている。その上をネコとアザミは飛んでゆく。

同時刻。
アヤメは広がる紫のガスを避けて垂直に降下する。すると下からも
同じガスが噴きつけられた。セフキープ2号である。セフキープは
プラスチックだからガスが作用しない。退路を絶たれたアヤメはたちまち
胸を撃ち抜かれて墜落した。劣化していたから一撃で貫通したのだ。

同時刻。
一階。
アヤメ「また通路が障壁で塞がれている」
「この応接室を抜けよう」
ネコは窓ガラスと枠を撃ち割った。
アヤメ「ドアから入ればいいのに」
ネコ「奴らは臆病なんだ強気に出た方がいい」

同時刻。
一階の別の広い部屋。
ヒョウと野菜トリオとセフキープ一号。
「応接室で銃声がしましたね」
「ネコだな」


○卵の森○

キャベツ・レタス・セロリの野菜トリオはそれぞれのライフル上部に
手乗りサイズの円筒散弾をカチッと装着した。同行したトランク的メカ
から取り出したものだ。ヒョウも背中から取り外したピストルの上面に
散弾体を装着した。引き金に連動する仕掛けだ。これで卵を破壊する。
鶏卵ほどの卵が棒状塊となっている。太さは人間の胴ほどある。それが
逆Uの字となり立ち並んでいるのだ。魚類の卵にありそうな形だ。部屋は
10メートル四方で床はまだらに薄く砂に覆われ、部屋の奥は完全に砂場に
なっている。机や椅子は見当たらない。空き部屋だったのか?向かって右の
壁面に直径2メートルほどのトンネルが口を開けている。筒と壁の境は
溶けたロウソクのようにどろどろ形状である。トンネルの内壁は人工物の
ように滑らかだ。
「その横穴を調べて来い」
命じられたトンボは中へ飛んで行った。その時砂場がズズズズと震え
蠢いた。ビルイーターが現われる前兆である。
「卵はあとまわしにしてそいつをやるぞ」
砂場は盛り上がり、牛ほどの節足動物が煙を巻き起こしながら半身を現した。
背中には放射状にツノがある。
「ワーッ出タ」
「ひきつけて上から囲み撃ちだ」
ズドドドオ!
ほとんど砂場全体が1メートルほどの厚みの煙を噴き上げた。全身を現した
ビルイーターの背後と脇にバックダンサーのように、6本の口吻がとつぜん
突き立ったのだ。
「最初の一体に集中しろ!」
卵隗は肩ほどの高さで柵のような具合に立ち並んでいる。野菜トリオは
控えめに推力を噴射しその上に浮き上がった。斜め上から撃つためと、柵に
妨げられずに移動するためである。天井の高さは4メートルほどで、下手を
すると頭をぶつけそうだ。ヒョウは後方でいつでも飛べるよう構えている。
ビルイーターは前進すると自分の卵を壊してしまうからか、その場で口吻を
くねらせている。背後の6本の樹木のような口吻のうち3本が同時に
コンクリート弾を射出した。これは不意打ちだった。口吻のみ床の上に
現われても相手が見えないから撃たないだろうとヒョウは考えたのだ。
(スミレが撃たれた時ネコはこの点の不思議さに気づかなかった)
MDは飛行能力はあるものの蝿のように機敏に飛べるわけではない。
コンクリ弾はバレーボールのアタックの速度で野菜トリオに命中した。
セロリは腿を撃たれて空中前転して床に背中から落ちた。レタスは左腕を
撃たれて空中で自転し、なかなか止まらない。キャベツは肩を浅く撃たれ、
弾は後ろへはじかれた。すぐに態勢を立て直してライフルを構えたのだが
今度はまともに顔にコンクリ弾を受けて後ろへふっとんだ。
最初のピルイーターが撃ったのだ。キャベツは窓を破って外へ飛び出した。
「あっキャベツ!」
廊下に飛び出したキャベツを見てアザミがこう言うとすかさず
ネコは
「アザミ加勢に入れ!」
と命じた。アザミが破れた窓から部屋に飛び込み、キャベツも続いて
再び部屋へ。
バッキーン!
ネコのほんの1メートル先で廊下の床が粉々に破れてビルイーター口吻が
突き出した。次の瞬間ネコはコンクリ弾に撃たれてひっくり返った。推力を
使って、床に接地する寸前で立ち直るとライフルで口吻を撃つ。
玄関はすぐ近くなのだが、ここは頑張らないといけない。


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