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作品名:迷路の戦士 作者:砂野徹

第1回   1

○○街を行く火炎隊○○

20XX年

防衛戦隊(旧自衛隊)の装甲車が高速道路を走る。
中型トラックほどの黒っぽい車両で、旋回機銃をいくつも搭載し
全方位を撃てるようになっている。上面には戦車そっくりの
しかし小さな砲塔が載っておりビートル(カブトムシ)と
呼ばれる機体である。 荷車のようにシンプルな車両が一機
ついてくる。4機のロボットが腰を下ろして載っている。
身長140センチのアンドロイドが1メートルほどのボンベを
背負ったような、と言ってもボンベは垂直を保っており、
ボンベの下半分に手足が付いた姿といった方がよいだろう。
ボンベからは蛇腹ホースと細長いノズルがつながり、
要するに歩く自律火炎放射器である。

2車両だけの戦隊は込み入った街を貫く道路を走り続ける。
建物の密度が恐ろしく高く、またひじょうに殺風景である。
ひとつひとつの建築に凝った形が無く、ひたすら直方体。
その全景は膨大なマッチ箱を狂ったように並べ組み合わせ続けた
かのようだ。

戦隊はやがて枝道の下り坂に入り、それを100メートルほど
進むと目的の「階面」に着いた。この時代、都会は立体迷路の
様相であった。もちろん迷うように作られているわけではないが。

そこには通称「虫ビル」があった。廃棄物を食べる生物を創り出す
研究所である。といっても外観はやはり単なる直方体であり、
等間隔に小さな窓が並んでいる。高さ16メートルの四階建て、
底面は24メートル四方だ。

そのビルの前、かなり広い庭(庭と言っても何も無いが)に戦隊は
停車した。装甲車の側面が下部を支点にパクンと開いて、ふかみどりの
兵服を来た男が踊り出て
「危険だからさがって!」
ものめずらしさで近づく人々に険しい声で怒鳴った。


○○警官・研究員○○

数十人が立ち止まったり近寄ろうとしている。
「なんだろ?事件?」
「事件でもふつう装甲車は来ないよ。
 来るのは狙撃とか突撃班じゃないの」
「さがりなさい危険!たいへん危険です」
割り込んだのはひとりの警官で、身長2メートルのアンドロイドを3機
連れている。3機は警官の制服風に紺色の塗装を施されている。塗装は
複雑だが形状は人型機としての機能一点張りで、手足は円柱あるいは
楕円柱、胴部や肩は円錐台や直方体、跳び箱的台型、それに間接部の
円柱・球部分・・・を組み合わせたものだ。人間風の靴を履いている。
頭部はほとんどカメラそのもので、今は危険状態を示す赤いライトが
伸びて赤く明滅している。(発光部は薄く、茎には関節がふたつある。
普段は小さく畳まれて 収納されている。)厚い胸にはパーツ分割線が
あり、そこが開くとライトや拡声機が現れるのだろう。彼らは人間の
警官を真似て人々を遠ざける。
「さがりなさい危険!たいへん危険です」

軍人は警備を警察に任せてビルに走ってゆく。もうひとり装甲車から
走り出てボンベロボットに指示を出す。
「配置につけッ!」
荷台の4機は立ち上がり、ホースノズルを銃のように構えて車両から
順に降りる。みんな同じ姿なので1機と残像3機のようにも見える。

ビル玄関(と言っても四角い扉があるだけ)付近に3人のスタッフが
立っている。研究者コスチュームの白衣を着た30〜35才ぐらいの
くたびれた男たち。走ってきた軍人も同輩だがこちらははつらつと
している。
「責任者は誰だ?」
と問うと、いちばんしなびた感じの男が
「私です」
と応じた。
「ミラプラはまだか?」
「もうすぐ・・・あっ」
と彼は軍人の肩越しに坂道の道路を指差した。
「来ましたね」
振り向くと、巨大なトラックが下りて来る。
車体側面には鍵に翼が生えたシルエットのマーク。
建材メーカー[ミラクルプラス]である。


○○ミラクルプラス・マスコミ記者○○

巨大トラックは屋根に円柱を四本載せている。長さ5メートルで
直径50センチほどだ。停車すると前部の運転席から小柄な男が二人
降りた。同じ顔で年齢が異なるので親子だろう。背広姿の、頭が
禿げ上がった方が
「作業開始!」
と言うとトラックの両側面がバターンと開いた。中には半人半車両的な
ロボットと、なにやらタンクがぎっしり詰まっており、それらは
なだれのように外にあふれた。若い方の男は25才ぐらいでジャンパー姿
である。親子は研究員たちの方へ歩いてゆく。そこへ取材陣の乗用車が
数台次々にやってきて止まり、記者たちがばらばらと出てきた。警官は
ロープを張って野次馬を整理していたが、マスコミ連は身分証を見せて
ビル玄関の集まりに加わった。研究員が説明を始める。
「ビルイーターが生まれまして」
「ビルイーター?ビルを食べるんですか」
「ええ、ガラス容器を破りました。ガラスは崩すだけなんですが
 コンクリートを食べるんです。とりいそぎプラスチックで密閉し
 薬剤駆除を行います。コーティング完了前に外へ逃げる可能性を考え
 火炎隊を派遣してもらいました。コンクリ内の生き残りや
 卵はその後ビル全体を中から熱して殺します。
 60度で死ぬことがわかっています」
ここでミラプラ親父が得意げに
「中では我が社のセフキープが活躍します。プラスチック外装なので
 食われません。今4体きりですがこれから量産を」
と口を出したが記者の一人は研究員に尋ねた。
「あの方法では屋上を覆うことができませんね」
ミラクルプラスのロボットたちは唸りを上げて作業を進めている。記者が
指差す先には例の円柱がビルの四隅付近に垂直に固定されロッド式に4層に
伸び屋上をやや越えていた。四本の柱にはワイヤーが張りめぐらされ、
上半身だけのようなロボットがタンクと噴霧器を備えてぶら下がっている。
つまりコーティングできるのは側面だけだ。
「ビルイーターは飛ばないから大丈夫です」
「地下に対しては?」
「このビルの基礎は当社のプラスチックです。
 もちろん下水口なども塞ぎましたよ」


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