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作品名:鮫を撃つ 作者:砂野徹

第6回   6

銀色の奴は5メートルもあるという。これは的として大きいという意味でもある。
村を徘徊すると言ってもまず卵樹園に向かうので、そこまでのコースは決まっている。
狙いどころはやはり20メートルに下降したときであり、人家のない方角、崖方面に
向かって撃てばよい。ナルザは或る小さな林に落ち着いていた。いつもとちがって空を
睨んで長い長い時を待ち続ける必要はない。時刻はだいたい決まっているし、ずっと
後方の櫓で村人が見張っており、奴が現れたら警鐘を響かせるのである。問題の、矢は
通るのか?は、やってみなければわからないのだった。

[鮫の鉄曜日]ではあったが、ギアは風車修理に出かけていた。警鐘が鳴ったら近くの
人家に駆け込むか、ユニックとともに煉瓦壁か大木にくっついていればよい。鮫の口の
形状から、そうしていれば食われないのだ。しかしギアは困惑していた。彼のユニックは
丸ノコ機械の水平棒とつなぐベルトに沿わない姿になっていた。胴全体、特に背中が丸く
大きく盛り上がっていたのだ。それだけではなく体毛が羽毛みたいになっていた。緑色の
眼はいつのまにか金色に輝いていた。朝でかけるときはこうではなかった。歩いている
うちに変化したのだろう。
「おまえユニックじゃなかったのか?何になろうとしているんだ」
その時、遠く鐘の音が聞こえた。
クアーン!クアーン!クアーンアンン・・・!

ナルザはそれより早く銀色の奴を見据えていた。
湖面からゆっくりと離水する。水しぶきは垂直湖面に戻ってゆく。
他の鮫と違って腹部に、背びれと上下に対を成す腹びれがある。
つまり尾びれの他に水平垂直に対を成す四枚のひれがあり、
腹びれの先端には硬質の鉤が前向きに尖り、黒っぽく光っていた。
背びれの根元には鎧のような分割覆い・・・エビの背のような・・・がある。
そして胸びれの後ろにエラと同じ切れ込みがあり、そこから青い炎を吹き出した。
「こんな・・・こんな奴は初めてだ」
ナルザはあきれて空を見つつボウガンをロックして荷車を降りた。彼は背中に四本の矢を
備えている。機構上ボウガンの矢は弓を引ききったとき弓に届かなくても良いので短めだ。
ナルザは大きな的が20メートルまで下降し横腹を見せると、撃った。矢を受けた鮫は
半回転した。明るい空を背景に暗い銀が光る。ダメージの様子は無い。腹に矢は刺さって
いるが、[通らなかった]のだ。そいつは真っ直ぐにナルザに向かってきた。ナルザは
すばやく全身でふたたび弓を引いた。
「うお!」
という声とともに。ユニックにまたがり100メートルほど離れた林に向かって走らせる。
鮫が追ってくる。空中での方向転換に手間取ったのでかなり距離がある。ナルザは
ユニックの肩に両足を載せて蹴り、少し浮いてから落下し着地した。そして90度左を
向いて矢を構えた。ユニックは左折して走ってゆく。これで鮫の横腹を撃てるはずだった
が鮫はユニックを追わず、惰性に流されながら縦に回転した。幅1メートルはあろう尾びれが
すくいあげるようにナルザの左半身を打った。
「うおー!」
彼は右手に握った[弓幹]だけでボウガンをひきとめながら激しく地面にたたきつけられ、
転がった。鮫の腹から抜けた矢が落下して、少し離れた地面に刺さった。ナルザは頭と目を
めぐらせて敵の位置を求める。奴は低空で向かってくる。腹びれを横にたたんでいるから、
目的は地表にある。
俺を食う気だな!
矢を放って当てても食われてしまうだろうが、弓を垂直に立てて構えればいかに大きな
口でも食えない。しかしナルザは体をうまく動かせなかった。銀色の悪魔は口を最大に
開いて動けない獲物にゆっくり迫る。剣を並べたような二重の歯列。しかしそれは

ドズム!

という鈍い音とともに軌道を変えナルザをそれた。彼の頼もしい相棒が突撃して鮫の
側面を突いたのだ。銀色の飛行船は突風に遭って離れてゆく。


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