一方、ギアは日暮れまで働いた。前日伝令を材木屋に走らせ・・・伝令は配達屋が兼ねて おり、これは役所が定額報酬を与え村をユニックで巡回させている・・・材木を要所に 運ばせておいた。10キロ四方ほどの村に20基の風車と31基の水車がある。これを点検し、 老朽部品を差し替えるのだ。負担がかかる小さな部品を取り替えれば百年でも使える 仕掛けになっている。14ヶ月に一度行なう。1ヶ月は4週間つまり24日である。一年は 16ヶ月で、この州には同規模の村が27ある。現在この仕事をギアがひとりで請け負って いるので、一つの村に何日もとどまってはいられない。風車屋が何人もいる場合は家具や オルゴールも作る余裕があるのだが、今のところギアは修理専門だ。ただし時計や オルゴールも修理は行なう。客が喜ぶのを目の前で見ることが出来るので、彼の大きな 生きがいとなっていた。本当はオルゴールばかり作っていたい。
内部メカは単純な工具を巧妙に使い小さな力で分解できるようになっている。歯車の ひとつひとつが精巧なブロックの集合であり、修理は傷んだブロックを差し替える。 たいていひとつだけだ。ギアは金属棒を接合し金属のギアボックスに差し込んでネジで 締めた。1メートルほどの支柱に3メートルほどの水平棒、その先端をユニックに繋いで 合図で円軌道を走らせると、不思議なことに丸いのこぎりが素晴らしい速さで回転する のだった。もちろん、或る程度の部品はあらかじめ作っておくこともあるのだが、 修理を要するかは現物を見ないとわからないことと移動の重さを考えると現地製作中心 が賢い。
ユニックは草食で、植物性のものはなんでも食べる。作業中に木屑を次々に食べてゆく。 そのうえ雑草も食べ続ける。 「最近よく食べるな?まだ大きくなるのかな」 ギアは休憩して相棒を眺めた。彼の昼食は白い芋とチーズと水筒のお茶。芋は薄く切って 焼く。遠くに崖が、[黒い鏡]が見える。湖面は判別できない。そのかなり手前に非常に 細長い建築、櫓(やぐら)がある。そのてっぺんには警鐘が吊ってある。鮫の出現を 知らせるのだろう。しかしそこに上った者は鮫に襲われないか?・・・ああそうか、 だから崖から遠いんだな。見つけたら急いで降りて、鐘はたぶん下からロープを引いて 鳴らす。すぐ鳴らせるよう上下に一人ずついて、上から合図するんだな。合図はやはり ロープだろう。たぶん櫓の根元には身を隠す大きな壷がある。
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明るいうちに教会に戻ったナルザは粗い布に油を染み込ませ入念に弓をぬぐった。弾力を 保つための手入れである。次に筋力運動を半時間ほど行なった。それが終わるころ カノンがやってきた。 「用はありませんか」 「ああ・・・カードで遊ばないか。君が勝ったら肩車して客舎をひとまわりしてやるよ」 「暗くなっちゃうわよ」 「明日さ」 二人はゲームを始めた。 「塩屋さんは?」 「仕事が終わったからここには泊まれない。 お得意さんのところに厄介になるそうだ。鮫退治を見物するためにね」 「ギアはいつまでいるのかしら」 「3日か4日と言ってたな」 ゲームは接戦で、陽が落ちるころカノンが勝った。そしてギアが帰ってきた。 ギ「夕食はまだ?」 カ「もうすぐよ。私は当番じゃないから暇なの」 ナ「あー俺もはらぺこだ。食堂へ行こうぜ」
その時ユニックは干し草をもくもくと食べていた。先に食べ終わったナルザの ユニックは隣を不思議そうに見ている。
食堂には30人ほどがいて、やがて食前の短い祈りが始まって、そのあと料理が運ばれた。 干し魚とバターを使ったシチューと胡桃を混ぜて焼いたパン、瓜のような果物を糖根と 煮て冷ましたジャムのようなもの。おわりに木の実を煎じた茶が出る。平日の食事は こういう具合で、贅沢は星曜日の夕飯と決まっている。
食事を終えると別棟の「水場」へ行く。二つの巨大な、低く広い甕(かめ)に熱湯と水が 入れてあって柄杓と桶が多くある。熱湯は壁から延びている樋から注いだものだ。大勢で 湯を使うにつれて部屋は湯気に満ち暖まる。男女はついたてで仕切られているが甕は 共有で、柄杓を持った腕を伸ばす。体を洗う布は持参だが石鹸は用意されている。 ギ「泡立ちが悪いなあ」 ナ「野生の石鹸樹から作ったんだろ。」 すると誰か女の声が 「あんたたちが汚れてるんじゃないの」 と答えたのでみんな笑った。
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