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作品名:終末人形 作者:砂野徹

第7回   鉱物トリオの行方(後)

11月4日にさかのぼる。

洗濯場で流介は、11月1日の記憶をたどることに決めた。分子式は理論なので
いつでも検証できるが記憶は逃げてしまうしこっちの謎のほうが大きい。
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11月1日・・・その日、トラックは三階建ての社屋に止まった。それを二階の
窓から人影が覗いており、ほどなくシャッターが上がり、中から5人のスタッフが
現れた。まちまちな作業着に身を包んでいる。リーダー格が笑顔で
「やりましょう」
とだけ言って鉱物トリオを招いた。ゴリラとトリオが協力してボンペメカを
下ろそうと手を掛ける。記憶はわずかに跳んで、流介がパソコンを操作すると
人形にチューブをつないだメカがかすかに唸って、それは始まった。
全員人形に注目している。
「満タンになったぞ」
「電気信号を入れます」
細い顔の石河が人形の腰背面のソケットに(電子回路部は俺たちの持参品を
組み込んだのだ)コードをつなごうとした時、
「何か話し掛けてください」
と誰かが喋った。ガレドリームの5人は
「ほう!喋るんですか」
と感心したが鉱物トリオは
「え・・・?喋ったのは誰ですか」
と不可解な顔だ。
???
トリオは顔を見合わせた。さらに
「人形が喋ったんでしょう。我々は話しかけてくれなんて言いません」
と言われても答えられない。ようやく流介が、自分に言い聞かせるように
ゆっくり、
「喋る機能は、無いんだ」
と説明した。顔を見合わせる8人。
「何か話し掛けてください」
人形がまた喋った。
「誰だよ腹話術を使っているのは!ふざけるんじゃないぜ」
「みんな人形から離れてこっちに集まれよ。
 どこから声が出ているかわかるから」
「何か話し掛けてください」
声は人形から出ている。ガレドリームのリーダーが笑い出した。
「喋る機能があるんでしょう。なぜ隠すんですか」
トリオは答えずこわばった顔でつかつかと人形に近寄る。
「こんなバカな!喋るはずはない。
 あんたたちこそ発注と別に発声機を・・・」
「何か話し掛けてください」
人形がまた喋って、石河の言葉をさえぎった。流介はつぶやくように
「クレバーエーテルには未知の要素がある。
 振動して声を出すことはできないことはない。
 周囲の電子機器から何か学習したのかもしれない」
みんなは人形をとりかこんで眺めた。
「何か話し掛けてください」
人形が繰り返すとそれまで黙っていた岩谷が応じた。
「お前は誰だ?」
すると岩谷は静止画のように硬直した。
「おい?どうした?」
流介が問いかけた時には岩谷の体は等身大の写真がよじれたみたいに
なっていた。
「うわあああ!!!」
そして次の瞬間には他の7人もそうなっていた。無事なのは流介だけだ。
7人は次に、小さな風船を無理にふくらませたみたいに、膨れて薄く半透明に
なってゆく。タバコの煙が拡散するように服から抜けてゆき、
服はくしゃくしゃと床に崩れ落ちた。流介は、・・・気絶した・・・。
「ここはどこだ・・・」
工房の隅で意識を取り戻したしたときはショックで記憶を失っていたのだ。


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