20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:終末人形 作者:砂野徹

第6回   天界への通路

11月21日。

「西洋的な科学は自意識の存在に触れることができない。生物が進化し脳が複雑に
 なったからと言ってもそこに意識は生まれない。外界の刺激に対して臨機応変の
 複雑な行動をとるために意識は要らないのだ。ダウンして気絶したボクサーが
 立ち上がって無意識のまま試合を続けた例もある。従来の科学では地球上に、
 無意識に動く動物だけが満ちていることになってしまう。」

リコは精神物理学入門を暗唱している。エル人形の謎を解くためだ。

「また、どのような狭い偏った主観からも世界の在りようを認識、記述することは
 できる。ここで重要なのは記述が何かではなく記述[できる]ということなのだ。
 夢を見ない眠りに落ちたり気絶した場合その時間帯は主観的には[無]であり
 意識を失っても目覚めた時点に記述は直結している。[主観にとって意識を
 失った状態はありえない]。常に何かを認識しているのである。これは
 単純明快な法則であり、何を以てしても覆らない。したがって、死を以ても
 覆らない。死によって意識を失って何千億年経ってもゼロを掛け算すれば答は
 ゼロであり[無限]にゼロを掛けても同じである。したがって、死んだ生物は
 生まれ変わる。さもなければ[主観にとっての記述がどうなるか]説明がつかない
 からである。ただし生まれ変わりによって意識は初期化される。気絶から覚めた
 時に記憶喪失になっているのと同じ状態である。このように考えると精神は
 脳の中で生まれるのではなく元々存在するものであり
 結びつくことができる物質に宿ると見るのが自然である。高度な脳は自意識に
 とって[座り心地の良い椅子]であろう。人間とクラゲの関係では知覚は後者が
 前者に含まれ、クラゲは人間の存在を見ることはできない。精神と物質の関係も
 類推できる。つまり人間は脳という物質と結びついた状態でしか[精神界]を
 知ることができない。以下、我々の世界を人界、精神世界を天界と呼称する。」

暗唱は続く。荒唐無稽な話だが、エル人形と中身の言動と中和して局員は
受け入れざるを得なかった。仮に他社の画期的ロボットと考えてみても、
なぜエルに化けてここに入ったのか目的が想定できない。それに、リコの
言うことは何についてもこれまですべて正しかったので聴衆は良い生徒であった。
別人の書物であってもそれを持ち出したのはリコであって、彼女は報告を意見に
見せかけたりはしないのだ。

「水と氷と水蒸気は同じ物質が条件によって姿を変えたものである。このように
 存在には単純で現れ方が多様、条件が複雑という法則があり、チベット密教では
 すべての物質は地水火風の四元素から成ると考えられアリストテレスも同様に
 考えた。原理的に正しい発想である。20世紀にはすでにエネルギーと物質、
 時間と空間が[同じ物の別の顔]であることが知られており、古くから中国の
 道教では精神と物質も互換性があるとされている。ようするに時間・空間・精神
 ・物質・エネルギーはすべて同一物の一面である。ただしその[同一物]には
 名前が付いていない。いわゆる重力の量子論、物理世界すべてを矛盾無く説明
 する大統一理論は20世紀に予測されたが達成されていない。それは物質
 ・エネルギー限定で考えているからだ。[すべて]を説明できねばならないのに
 精神に触れていないのである。触れられていないものに答の鍵があると考える
 のが自然であり、私(星野渦太郎)は精神こそがすべてであり時間・空間・物質
 ・エネルギーをその一面であると予測した。これが精神物理学の基本である。
 人界では 脳という椅子に座らねば意識は存在できないが天界では意識は座る
 必要が無い。天界の様子をいくぶんなりとも知るためにはどうすればよいのか?
 天界が、人界向けの単純化を経ずに一部現れたのが超常現象である。それらの
 共通点を調べると[形]との関わりに共通点があることがわかった」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 23