同日、11月21日。 所変わって株式会社クリエイト建築パラビルダー企画部。 「鉱物トリオはまだ欠勤か?連絡はとれんのか」 トリオとは土山流介と部下の石河渡・岩谷踊一のことだ。11月1日に、 一台の小型トラックと共に会社から消えてしまった。 「クレバーなんとかが成功したと意気込んでましたから、 自発的失踪でもなさそうですね」 「他社にスカウトされたんでしょうか?」 「それなら連絡があるはずさ。メールも何も無いんだ。 そもそも、ヘッドハンティングされるなら土山だけだろう。」 「交通事故なら発見されるし誘拐なら通告があるはずだし、 わけがわからんな」 「交通以外の事故かもしれません」 「どんな?」 「・・・」 「クレバーなんだったかしら」 「エーテルです。クレバーエーテル」 「エーテルて液体よね。危険なの?」 「新しいネーミングに使う場合は流体の総称でしょう」 「彼らはボンベがなんとかと言ってましたよ」 「すると、つまり・・・エーテル入りボンベをトラックでどこかへ 運んだということか。」 「そして帰ってこない・・・途中で何か起こったか」 「あるいは着いた場所にとどめられて連絡がとれないか」 「悪い可能性に備えるべきですね。三人とトラックの捜索願いを 出しましょう」 「悪い可能性って?」 「もしエーテルが危険物で被害が世間に表れたら管理不充分で社の責任が 問われる。捜索もしてないのではまずい」
11月1日のことだ。 一台の小型トラックが朝の街を走る。トラック側面にはパラビルダーの ロゴとマークがある。運転手は細い顔の石河、隣に丸顔の岩谷。ふたり とも二十歳ぐらいで作業服姿。流介は荷台の前方隅に腕を組んで座って いる。後方隅には人的作業ロボット[ゴリラ]が座っている。流介が観用機と 実用機を組んでカスタマイズしたロボットで、歩行用ニ脚のほかに踏ん張り 脚が必要に応じて後ろに伸びる。また、背中と胸中央にも腕を一本ずつ 畳んで収納している7肢機であり様々な作業をこなせる。今はドラム缶ほどの ボンベを押さえて安定させている。もちろん押さえなくても突っ張り棒や ロープで荷台に固定はしてあるが。ボンベには太く長いチューブが付いて いる他、いくつかのパイプが周囲をめぐり、箱状機器もつながっている。 箱にはダイヤルとボタンがいくつかある。流介はリュックサックを前後逆に 装着しておりその中身は四角い板である。ノートパソコンを胸に抱いている のだ。これをボンペ機器とつないで使うのでボンベ側にはモニターがいらない。 トラックは市街部を抜け田園と工場が混ざった地帯へ入る。高層ビルは しだいに少なくなり、見通しの良い景色に変わってゆく。1キロほど先に ガレドリームの小さなビルが見える。一階が鉄工所のような工房で二階が 事務室と住居、三階が展示室と社長室で、それだけの建物である。 ------------------------------------------------------------------ 流介はここまで思い出した。 今は11月4日であり彼は洗濯物を乾燥機に入れる手を止めたまま、 ・・・宿泊用の小さな部屋がありシャワーと洗濯機乾燥機そして食料もある。 服が乾くまではタオルを巻いている。たいして寒い季節ではない。・・・ これからどちらを考えるか迷った。もうひとつは[精神物理学入門]の 立体分子式に自分が発見した式が一部含まれており、記述法が違うだけで 実質は同じ部分が他にもありそうなことだ。
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