★★★ここでまたさかのぼる。11月1日★★★
「落ち着け、 落ち着け・・・。」 流介は自分に言い聞かせた。記憶がなくなってるのは或る一部分で、 基本はわかっている。俺は土山流介、建築関係会社パラビルダーの研究員だ。 可動密封器に入れると電気信号でポーズを変える流体クレバーエーテルを 開発した。そうだ!あのがらんどうの人形がその容器なのだ。ここへは、 それを受け取りに来たんだ。ここは・・・[ガレドリーム]だ。 思い出したぞ!
★★★元に戻る。20日★★★
ヤモと別れた桃山エルは携帯端末を上半身だけの改札ロボットに向けて 列車のホームに入る。
★★★さかのぼる。1日★★★
ガレドリームはいわゆるガレージキットメーカーだ。試作品を少数発注 するのにちょうどいいからここを選んだ。会議のプレゼンテーションで 大きな予算を分捕るには見映えする観用機が必要なのだ。二人の助手と 一緒にエーテルをここへ運んだ。動かしてみて手直しが必要ならすぐ できるようにと。そして・・・うう、まだ頭がモヤモヤする。助手に 電話してみよう。しかし流介はなぜか端末を手にかたまった。連絡を とる気がしないのだ。助手に限らず外部に連絡をとってはならないような 気がする。なぜだ・・・・?・・・・?・・・・そのとき 『宇宙は巻貝の姿をしている』 という言葉を思い出した。なんだろう。流介は一点集中屋で気になることが あるとそれが解決するまで他のことはしない。検索するか?携帯画面では 面倒だ。大きなモニタとキーボード・・・はこの屋内にあるだろう。
娯楽室のような場所にコイン端末があった。検索すると、 『宇宙は巻貝の姿をしている・・・・人体の本質は球である・・・散は集を 求め集は散を求める・・・星野渦太郎著[精神物理学入門]有料』 流介はカード番号を入力し購入した。自分の携帯端末には入りきらないが、 都合よいことに共用ディスクが本棚にあった。
★元に戻る。11月20日★
エルは歩いている。もうすぐマンションだ。やや離れて、仮面の女が一人 歩いている。エルがキーカードをドアに差して住処に帰ると、まもなく その女が訪れた。 「観用機を買いませんか?3日間試用無料です。」
翌日11月21日、 エルは仮面をつけて出勤し、ずっとつけたままであった。手には外科医が使う 薄い手袋をつけていた。あのウェイトレスもつけていたものだ。それは自由 なので誰も理由を問わなかった。デザイン局員には個別のデスクとは別に 共同作業するための大テーブルがある。エルのポジションはリコのアシスタント だが、独自の絵を混ぜるよう指示されることもある。これは採用されることは ほとんど無く、リコが発想の手がかりとするためである。
リコがエルの異変に気づいたのは夕方になってからだ。肩パーツを独自に描いて みてと言われて、動かなくなったのだ。 「エル・・・?どうしたの」 30秒ほども何も反応が無い。リコはエルの仮面を外してみた。仮面の下からは エルではなく、別の仮面が現れた。簡略な、ユキダルマのような。
「みんな!集まって!」 リコは実質のリーダーでありデザイン局員を呼集することはたびたびあるが、 いつもとは違う気配を訝りながらみんな(20人ほど)は集まった。デザイン局長は 40才ほどの男だ。 「エルとそっくりな体の観用機か?」 「声まで同じだった」 「しかし動きが良すぎるな。誰も気づかなかった」と言いながら局長は ロボットを裸にした。人間の皮膚に似せたカバーに覆われているが、見るからに 作り物である。カメラのフラッシュが明滅する。撮影係がチームワーク良く 写真をとっているのだ。 「本当の裸にしよう」 カバーをナイフで裂いて脱がせると、関節可動マネキンという趣の裸体が現れた。 「さて・・・内部構造が問題だが、これは我々の管轄ではないな。 内臓屋に連絡しろ」 「デザインを盗むスパイでしょうか?」 「かもしれんが、デザイン局は電波を通さないから、 ここから出さなければ大丈夫さ」 「あ、あの・・・・」 震える声で疑問を発したのは若い男だ。 「エルさんの仕事をできたのはいったい・・・どんな仕掛けで」 「うん・・・確かにおかしいね?」 「それに、エル本人はどうしたのか」 「電話したみたら?」 「エルの電話はこいつが持っているだろう」 「とにかく分解してみよう」
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