★★★ここで話は19日前にさかのぼる。11月1日★★★
「ここはどこだ・・・」 土山流介31才は意識を取り戻した。平凡なサラーリーマンスーツが 寝崩れている。見慣れぬ倉庫のような広い部屋の隅に眠っていたのだ。 何人もの人影がてきぱきとなにやら作業している。彼らは人間大の 人形を組み立てているのだ。遠いドアが開いて部品を積んだ台車が 出てきた。 「何か妙だな?・・・」 流介は覚めきらぬ頭を激しく振って目を凝らした。作業員に着衣と 裸の二種類がいるのだ。いや、そうではない。裸なのは人形で、 人形が人形を組み立てているのだ。それだけではない。まだ他にも変だ。 なんだろう? よく見ると着衣も人形と同じユキダルマのような顔をしている。 観用機(人型ロボット)が自分と同じ外観の人形を組み立てているんだな。 人形の方は内部機関がなくがらんどうだから。しかしなぜロボットの 一部は服を着てるんだろう。流介は喉の渇きをおぼえ、蛇口マークの ドアへしずかにすりよった。なぜか気づかれてはまずいという気が 強くしたのだ。
洗面所の鏡を見て驚いた。 「髪が真っ白になっている!」
★★★ここで話は元に戻る。11月20日★★★
食事を終えたリコはバッグから別の仮面と上着を取り出した。 元の仮面も取りだしヤモに差し出した。
[森の椅子]のドアが開いて、仮面をつけたヤモが出てきた。 リコは席に付いたままで別の仮面を見ている。その面がヤモの声で喋った。 「今交差点を渡りましたあ」 携帯電話と繋ぐことができるのだ。リコは新しい上着と仮面で店の外へ 出た。一人の、服は普通だがヤクザっぽい表情の男が距離を置いてついて くる。 「靴が同じなんだよね」
ヤモは会社の入り口でエルとすれちがう。 「あれっエルちゃん早退するの?」 「元気が出ないのよ。急いで清書する絵があったら電話してね」
この時代、人型ロボットは運動性の限界が低いため実用機は有腕車両や 四足単腕機であり、アンドロイドは観用機と呼ばれていた。 ヒューマシン社は観用機中心である。
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