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作品名:終末人形 作者:砂野徹

最終回   エピローグ



翌年の一月一日の午前一時、
リコは自宅でワンピースの袖に腕を通した。白地に水色・青・黄色・オレンジ色の
大きく不規則な形の島が浮かぶ大胆な柄である。そして顔に同様のメイクを
施した。これはリコの発案ではなくこの冬の流行なのだ。常人にまぎれるための
扮装である。ガレドリーム事件のあとフェイスキーパーは廃れ、カメラと電話は
ヘッドギア型が主流となった。リコは紫のウィッグつきのヘッドギアをかぶり、
鏡にむかってうなづいた。
「よし」
これから夜の街を少し歩いて、流介と落ち合って彼の車でヘリポートへ行き、
ヘリコプターの中から初日の出を見る。それから山の中の別荘へ降りて、
仲間たちと新年会を行なう。

街を散策しながらもリコの頭は流介の立体分子式でほとんどいっぱいだった。
彼の発明の安全な利用法が興味の焦点なのだ。そして二番目の興味は流介が
かなりリコに近い頭脳を持っていることだ。彼と一緒にいれば天才の孤独は
大いに解消できるだろう。デザイン局長は常人だが、あの日、中継録画を
続けながら生放送を打ち切ったのは上出来だった。黒い塊はしだいに葡萄の
ように小さな球の集合となり、つぶつぶのひとつひとつが裸の人間に変化して
意識を取り戻したのだが、途中経過はあまり気持ちのよい姿ではなかったからだ。
もちろんその中には探偵や「森の椅子」の客やエルやウェイトレスもいた。
「私たち・・・私・・・一人一人になってしまった。よく憶えていないけど」
総数638人であった。人数分の適当な服と靴がトラックで運ばれて、代金は
リコが立て替えた。パラビルダーの鉱物トリオは欠勤を咎められなかった。
社則の中の「・・・その他のやむなき事情により・・・」に
該当したからだ。この事件はネットで世界中に配信されたのだが
国内でも大騒ぎにはならなかった。どう反応してよいかわからなかったのだ。
変化はリコが「姫」の他に「天女」と呼ばれるようになったことぐらいである。

例の写真誌の男は取材根性が足りない奴と評判を落としたが
リコとのやりとりのデータを競売に掛け大金をつかんだらしい。


「精神物理学入門」は売れに売れた。



星野渦太郎の消息は不明である。









                 ----完----









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