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作品名:終末人形 作者:砂野徹

第15回   決戦単体

三階は妙な間取りだった。16メートル四方のフロアの中に、左右8メートル
奥行10メートルの部屋がある。部屋の両側面に幅4メートルの空き空間があり、
前方はビル前方に詰まっており、部屋のうしろは前後6メートル空いている。
三階への階段を昇りきると、そこは部屋後方の16×6メートル空間の端であった。
空き空間には掃除道具などの小物があるだけで、ほぼがらんどうである。
社長室の両面には大きな窓があり、ビル外壁側面にも窓がある。部屋の入り口は
左側にあり、マネキン機がノックすると
「どうぞ」
と男の声がした。開かれたドアをリコが通ると、部屋の後端に机がありそこの
椅子に[社長]が座っていた。社長らしくスーツを着たマネキンである。部屋を
前後に分けるように簡素な長テーブルがあり椅子もいくつかある。四面の壁には
製品が飾ってあるが少なめで、オシャレな倉庫という趣だ。リコがカメラ仮面を
立て、テーブルの前で社長に向き合うと、彼は
「ようこそ決戦単体」
と言った。その言葉でリコは大筋を察した。人界のパターンである。しかし疑問を
はっきりさせたい。
「精神物理学の予測は正しいの?」
「正しいよ。不足はあるがまちがってはいない」
「土山流介が発明した流体はサイコエーテルと同じものなのね。
精神が物質界に直接現れたときの姿・・・」
「人型可動密封機に詰めることで同じになる」
「天界に自意識はあるの?」
「ある。ただしそれは単一のものだ。」
「あなたに意識はあるの?」
「無い。このたび活動している人型機はすべて無意識だ。それを通して天界へ
 情報は入るが、天界から操作することはできない。水が氷を溶かして水を
 増やすように、我々は人間を溶かして増えるのだ。個体性の高い人間は溶けない
 のだが常人はちいさなきっかけで溶ける。そして、人界のパターンに従い効率の
 高さを求めることになる。我々の可動容器を大工場で量産できて、きっかけなしで
 遠方の人間を流体化できても、さらに遠方から銃砲類で対抗されたら勝敗は
 どうなるかわからない。したがって、一騎討ちで勝った方が全部取るのだ。
 君は溶けないから物理的に殺すほか無い。我々はエリート機を用意した」
「私は・・・私は何者か?なぜ選ばれたか」
「君は人界の代表だ。最も個体性が高いので選ばれた」
「その高さは何によるものか?単に程度の違いか?」
「研究中だ。天界の科学も完成してはいない。いずれにしても君がいなくなれば
 人界は個体性の重鎮を失う。」
「人界をどうしたい?」
「天界の意識は壊したくないだろう。研究したいからな。しかし我々はいわば
 本能として戦う」
「私が勝つとどうなるの?」
「人界は元の状態に戻る。サイコエーテルは消失する」
「私が負けるとどうなるの?」
「意識ある者すべて湯に落ちた綿菓子のように消えてしまうだろう」
そのとき社長の背後に、役者が舞台にせり上がるように一機のマネキンが現れた。
ビル中央のエレベーターがそこにあり、その屋根に載って現れたのだ。
エレベーターは一階と二階を行き来するのみであり、三階へ昇るには屋根に載る
のである。[彼]は、・・・そう、男型マネキン機であり、身長175センチある。
リコは160だから比較的にひじょうに大きい。
「決戦単体ね」
リコが闘竿を握って問うと、彼は
「お喋りは終わりだ」
と言い、腕を鉈のように振り下ろして座っていた社長の頭部を叩き割った。


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