20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:終末人形 作者:砂野徹

第14回   深海魚

階段は三階まで直接続いてはいなくて、二階の通路を通って対面まで歩くと
三階への階段がある。が、二階の大半は資材や製品の倉庫と化しており
そこは通れないので、扉を開いて二階の高さの外部通路へ出て移動する。
田舎町の光景を見渡せた。曇り空だが明るく、コンビニ・安アパート・ガソリン
スタンド・保育園・歯医者・ドライバー相手の書店やラーメン屋・農協の倉庫や
雑木林が集散する中を道路と線路が縫っている。外部通路は接合形状から、
後から付けたものらしい。設計思想が無くていきあたりばったりなのだろう。
非常階段ならぬ非常踊り場がビル背面16メートルに渡って細長く続く。
リコはそこを、事務員マネキンに従って歩く。窓から中を見ると何体かの
着衣マネキンがデスクワークを行なっている。二階の事務室から一階へ行くには
窓からここへ出るのかもしれない。リコは歩きながら考える。たぶん人界は
天界からすれば深海底のようなもので、私たちは深海魚なのだ。海では魚が最も
適しており、天界の生命体は自意識を持ったまま人界には入れないのだろう。
深海の水圧に耐えられる潜水機が、可動マネキンの外殻なのかもしれない。
リコはここでなぜ私は知的超人なのだろうと考えた。たまたま優れた脳であり
程度の違いだけなのだろうか。あるいは何か構造が違うのだろうか。
私は[浮上機]を使って天界を覗けるのだろうか。しかしそれは決壊現象を招く
ような気がする。そうだ、私は決壊を食い止めるためにここへ来たんだから、
そんなこと望んではいけない。私は、天界への通路を閉じに来たのだ。
二人は16メートルを歩き端に達しマネキンがドアを押してやや暗い中へ入る。
リコも続く。そこには一階→二階の階段と同じ金属の段が三階へと続いている。
-----------------------------------
同時刻
首都N市では異変が広がっていた。マネキン機に話しかけられて答えた人間が
次々に溶けてゆく。[森の椅子]で客が溶けた時には他の場所でそれは起こって
いなかった。リコが居合わせてこそ起こったのだ。しかし今や無差別に、次々に
人が溶けてゆく。街で働くマネキンは200体ほどになっていた。これはエルに
対してと同じに、訪問販売で広めたものである。広めるには最初は訪問という
人界のパターンを踏襲したのだ。無差別溶解は単に決壊の進行によるのではなく、
ガレドリームの或る場所に作られたエリート機の状態による。今[彼]の中、
腹部で、立体卍のような姿の可動レトルトが複雑に各部別々のタイミングと
速度で回転していた。この踊りが始まると同時に街の決壊が加速したのだ。
[なまなま14時]の司会者が、ディレクターの驚愕を見て後ろを見た時、
群集の何人かが溶けていた。ティッシュ配りのマネキンに答えたからだ。
ADが冷静に進行を促すボードを見せ、ディレクタに
「CM秒読み始めてください」
と言う。このADもマネキン機である。
ディレクタの
「CMどころじゃ・・・」
は途中で消えた。彼の半透明の布のような姿もすぐ消えた。テレビを見ていた
人々も驚いた。しかし特撮か?と疑うところへ知り合いからメールが入る。
一億を越える国民の中で、ネット中継とテレビをたまたま同時に見た者も或る
程度いた。情報は爆発的に広がり、テレビ関係者に伝わるのもアッというまだ。
各局テレビは[ガレドリーム中継]に切り替わった。ヒューマシンから許可を得て
ネット中継をテレビにつないだだけだが。
------------------------
リコは社長室へ階段を昇る。右手は闘竿を握り、左手は一機の仮面ユニットを
つかんでいる。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 23