リコに続いてゴリラが仮面ユニットを抱えて入って来た。ゴリラは11月10日ごろ から食品や服の買い物に外出しており、今日もでかけるところだった。流介は新しい 作業服を着ており髪は黒くなり活力に満ちている。知性を駆使して謎を追求するのは 快楽であり、謎がすっかり解けたからだ。組み立て場には50体ほどのマネキンが いて、リコに襲いかかった。胴が完全に柔軟ではないため人間よりわずかに動きが 鈍い。先頭の人形は先ほどと同じに顔を割られた。リコは伸びた竿を固定し投げ縄の ように高く振り回してから縦に振り下ろした。次の人形の脳天に半楕円がめり込む。 糸が切れたマリオネットのようにくにゃりと倒れる。下げた竿をゴルフスイングで 振り上げる。別の人形のこめかみに穴が開く。噴き出したエーテルは見る間に散って 消える。リコはエル人形を調べて弱点を知り[闘竿]を発注したのだ。人形は ノーガードでつかみかかり次々に壊され7体8体と倒れるが徐々に包囲陣となる。 リコは右手のスナップショットで右方の的を打つと、竿の握りを左手に飛ばした。 左手で受け取るとそのまま左方の顔を割る。同時に右のキックは別の人形の腿を 掬っている。滑らかな一連動である。フィギアスケーターのようだ。腿を蹴られた 人形は伸身半回転して頭を床で粉砕した。流介は隅っこでボンベメカにつないだ パソコンになにやら入力している。ゴリラは6基の仮面を壁際に均等に立てると 静観姿勢となった。闘うための速度は備えていないのだ。リコの動きには無駄が無い。 上→下、右→左と武器を振る際にバックスイングが攻撃を兼ねている。 全身をしなやかに使って舞い続けた。伸び、沈み、跳ねて旋転し、 一条の踊るリボンの如くである。 「す、すごい・・・!」 ヒューマシンの面々はパソコン画面に釘付けとなっている。ネット中継の視聴者も。 「人体の本質は球である・・・」 局員は無意識に暗唱を始めた。 「動物は食物を得るため前進するのが動作の基本なので植物のように上下のみ 区別ある放射型ではなく前後の区別があるつまり前後と上下の区別がある。 人間は上下にもほぼ対称であり細長い体を立てているため前後を極めて楽に 入れ替えることができる。もし無重力空間で生存するなら方向性がありなおかつ 球という・・・ええとなんだっけ」 「・・・人間のみが複雑多様に踊ることができるのだ。 その動きは動的超球を表現するから美しいのである。」 2分ほどで30体が倒された。ここでマネキンの攻撃は止まった。仲間が半数を 割ると停止するのかもしれない。マネキンが喋った。口々に同じことを。 「三階の社長室へどうぞ」 「社長室へどうぞ」「どうぞ」「うぞ」 リコは闘竿を収納すると、 「ああ・・・やっぱり」 とつぶやいた。単に彼らを破壊するならもっと効率の高い武器も作れるが、リコが 人的動作を用いたのはコミュニケーションをとるのが目的だった。彼らの程度の低い 自律性、硬直した行動は人界のパターンに適応したと思えるので、それにあわせる ことで進展があると考えたのだ。リコは階段へ向かう。エレベーターは一階には 現れておらず、その底が天井の一部を成している。階段を昇ってゆくと二階から 事務服を来たマネキンが見下ろして 「どうぞこちらへ」 と手招いた。おそらくこの会社のメンバーは全員マネキンと入れ替わって操業を 続けたのだろう。ガレキメーカーの仕事は基本的に複製的で、クリエイティブティは あまり無いのでほとんどの仕事ができそうだ。できない仕事についてはマネキンに なって(この点をリコは知らないが)3週間だから致命的な遅延にはなっていないのだ。 社員が帰宅しないことを訝った訪問者もあの探偵のように消えたのだろう。
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