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作品名:終末人形 作者:砂野徹

第12回   三階建てのビル

「ロボットと会話してはいけない。忘れちゃだめよ」
「なぜ?・・・あっ先客がいるな」
別の方角からやってきた黒い自動車がガレドリームの正面に止まり、地味な
スーツの男が降りた。リコと記者の車はその隣に止まる。二階の窓で人影が
動くのをリコは見逃さなかった。次にシャッター横の小さな扉が開いて
マネキン機が現れた。両者がなにやら喋るとスーツの男は等身大の写真が
よじれたような姿になり、・・・・
「うわああ!どうなってんだ」
「喋るとああなるのよ」
リコは外に出ると運転席のドアを開き仮面の説明書を丸めて記者の口に
押し込んだ。
「急いで。屋根が回るんでしょ」
「むぐ・・・」
車の屋根を、串焼きを裏返すように90度回転させて、記者は機材を天井から
外して抱えた。風が吹いて、マネキンとリコの間を地味なスーツは踊るように
飛んで行った。二階の窓が開いて、中から男が顔を出した。
「米山リコ!お目にかかれて光栄だ。
 その溶けた男はたぶん俺を捜しに来た探偵だろう」
「あなたは土山流介ね。業界誌で写真を見たことがある」
リコは流介に応え進みつつふところから短めのバトンのような物を出し素早く
振った。

バキーン!

1メートル以上離れていたマネキン機は顔を割られ後ろに吹っ飛んだ。ドアを
通って屋内へ倒れガラガラと乾いた音を発して動かなくなり垂直にエーテルを
吹き上げる。リコがその60センチの棒を手首だけで立てると半分に縮んで

カシーン!

と気持ちよい音を響かせた。先端に鉛合金の半楕円隗を装着した金属の竿で
ある。人差し指で操作する突起があり筒内部のシーソー的部品と連動し竿を縮め
あるいは伸ばして固定できる。このためワイヤーをビニールで包んだ[紐]が
外部を走っている。試作工房ではこの種の仕掛けを毎日作っているので1時間で
完成したのだ。縮めた状態で振りフォームの終わり近くで開放すると先端部を
投石器的に投げた勢いで、腕とあわせてかなりのリーチになる。記者はほとんど
腰を抜かして丸まった紙を吐き出した。
「こ、怖いよ」
「それじゃ仮面を四本四方に外から立てて残りは」
「私が屋内に立てましょう」
ゴリラがビル外部側面から現れた。リコはもう中に突進していた。詳細な地図的
データで内部もだいたいわかっている。床面は16メートルの正方形であり
高さは約9メートル。一階から順に4・2・3メートルの厚みである。一階は
作業種によりついたてで仕切られているが今は半分以上が組み立て場となっている。
二階の半分は倉庫だ。三階のどまんなかに社長室謙展示室があり、その部屋の
後端と一階の真ん中を垂直に結ぶエレベーターがある。壁が無く金属の骨格だけだ。
本来は資材を上下移送するためのものらしい。梯子を斜めにしたようなシンプルな
狭い階段が一階のひとつの壁にへばりついている。そこを流介がパソコンを提げて
降りて来た。リコは彼の仕事を知っているので展開の大筋を一瞬で理解した。
流介も、リコの行動からマネキン機を壊せば良いと悟った。
彼女がいつも正しいことは誰でも知っているのだ。


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