「シャワーを浴びてくる」 リコは出て行った。局員が泊り込むことはよくあるので仮眠室やシャワーが ある。リコは仕事中に時々シャワーを浴びに行くことがある。気分転換の ためと思われているが、実際体を洗う。代謝ペースが常人と異なるからだ。
「ガレドリームへ行って危険は無いんでしょうか」 「行かないほうが安全というわけでもないよ。 (メール係に)何か情報は入らないか?」 「喫茶店から報告がありました。 店主はウェイトレスをアンドロイドだと思ってたそうです。 最初は本人の振りをしようとしたけどばれたので断ろうとすると ギャラはいらないと言われて使うことにしたそうです。 同類の現象は他の仕事でも起こっているらしいというのが 客の申告です。」 「そして今日、ウェイトレスに応えた者と近くの人間が溶けた。 ・・・これまではなぜ溶けなかったか?」 「応えると溶けるは関係あるのか?偶然の一致じゃないのかい。 今日だって途中まで応えても溶けなかったんだから」 「偶然だとすると、もっとまずいですね。これからは [応えなくても溶ける]ことになる」 「溶けるようになったのはリコが店に入った時、あるいはその短い前後だな」 「それも偶然か?リコを軸に展開してるような気もするね」 「もしそうなら彼女だけは溶けないのかもしれません」 ---------------------------------- 細い小型車がヒューマシン目指して走っている。二人乗りで、運転席の後ろに 一人分の座席がある。そこは普段は荷物の場所で、畳んである椅子を開いて 座席にもできる。オートバイと本格乗用車の中間のような機体である。 運転席も畳めば宿泊カプセルになる。宿泊用品をコインロッカーに詰めて、 リコのために座席を開いたのだ。リコに指示された買い物は椅子の下にある。 ヒューマシンが見えてきた。ヒューマシンからガレドリームは40kmの ほぼ一本道だ。 ------------------------------- 小型車が走る。 後部に仮面をつけたリコが乗っている。電話で喋るためだ。出社時とは別の服を 着ているが、やはり男のような姿で、上着はダボッとしたジャンパーだ。記者が 買ってきた仮面の額にペンキペンで番号を書いて(ペンに白と黒が必要なのは 仮面に明色と暗色があるからだ)楽譜立てに針金で固定してゆく。楽譜立ては もちろん三脚をたたんでロッドを縮めたままだが仮面をつけて10基となると かなりかさばる。これは天井の荷物用ベルトを通して頭上に配置した。リコは デザイン局との会話を終えると仮面をはずした。髪が2cmほど伸びている。 脂肪は薄くなり細くなった顔をバックミラーで見た記者は驚いた。1時間ほど 前に交差点で見たときとは別人だ。 「説明してくれないかな」 「ガレドリーム産のロボットが暴走している恐れがあるのよ。 それも含めて商談に行くの。10基の仮面は中継用」 「そりゃ面白そうだ」 リコは嘘をついたわけではない。たぶんサイコエーテルは人界側の行為により 現れた。マネキン機の外殻製造がきっかけなのだろう。その行動は[融通の効かない 繁殖行為]と思える。彼らが都会に遠征したのは、人口密度の高さを求めたのでは ないか。昆虫のような印象だ。繁殖は等比級数的加速的なものであり、早期に 対応しないと人間は虫に勝てない。車は市街部を抜け田園と工場が混ざった地帯へ 入る。高層ビルはしだいに少なくなり、見通しの良い景色に変わってゆく。 1キロほど先にガレドリームの小さなビルが見える。一階が鉄工所のような工房で 二階が事務室と住居、三階が展示室と社長室で、それだけの建物である。
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