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作品名:終末人形 作者:砂野徹

第11回   一本道

「シャワーを浴びてくる」
リコは出て行った。局員が泊り込むことはよくあるので仮眠室やシャワーが
ある。リコは仕事中に時々シャワーを浴びに行くことがある。気分転換の
ためと思われているが、実際体を洗う。代謝ペースが常人と異なるからだ。

「ガレドリームへ行って危険は無いんでしょうか」
「行かないほうが安全というわけでもないよ。
 (メール係に)何か情報は入らないか?」
「喫茶店から報告がありました。
 店主はウェイトレスをアンドロイドだと思ってたそうです。
 最初は本人の振りをしようとしたけどばれたので断ろうとすると
 ギャラはいらないと言われて使うことにしたそうです。
 同類の現象は他の仕事でも起こっているらしいというのが
 客の申告です。」
「そして今日、ウェイトレスに応えた者と近くの人間が溶けた。
 ・・・これまではなぜ溶けなかったか?」
「応えると溶けるは関係あるのか?偶然の一致じゃないのかい。
 今日だって途中まで応えても溶けなかったんだから」
「偶然だとすると、もっとまずいですね。これからは
 [応えなくても溶ける]ことになる」
「溶けるようになったのはリコが店に入った時、あるいはその短い前後だな」
「それも偶然か?リコを軸に展開してるような気もするね」
「もしそうなら彼女だけは溶けないのかもしれません」
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細い小型車がヒューマシン目指して走っている。二人乗りで、運転席の後ろに
一人分の座席がある。そこは普段は荷物の場所で、畳んである椅子を開いて
座席にもできる。オートバイと本格乗用車の中間のような機体である。
運転席も畳めば宿泊カプセルになる。宿泊用品をコインロッカーに詰めて、
リコのために座席を開いたのだ。リコに指示された買い物は椅子の下にある。
ヒューマシンが見えてきた。ヒューマシンからガレドリームは40kmの
ほぼ一本道だ。
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小型車が走る。
後部に仮面をつけたリコが乗っている。電話で喋るためだ。出社時とは別の服を
着ているが、やはり男のような姿で、上着はダボッとしたジャンパーだ。記者が
買ってきた仮面の額にペンキペンで番号を書いて(ペンに白と黒が必要なのは
仮面に明色と暗色があるからだ)楽譜立てに針金で固定してゆく。楽譜立ては
もちろん三脚をたたんでロッドを縮めたままだが仮面をつけて10基となると
かなりかさばる。これは天井の荷物用ベルトを通して頭上に配置した。リコは
デザイン局との会話を終えると仮面をはずした。髪が2cmほど伸びている。
脂肪は薄くなり細くなった顔をバックミラーで見た記者は驚いた。1時間ほど
前に交差点で見たときとは別人だ。
「説明してくれないかな」
「ガレドリーム産のロボットが暴走している恐れがあるのよ。
 それも含めて商談に行くの。10基の仮面は中継用」
「そりゃ面白そうだ」
リコは嘘をついたわけではない。たぶんサイコエーテルは人界側の行為により
現れた。マネキン機の外殻製造がきっかけなのだろう。その行動は[融通の効かない
繁殖行為]と思える。彼らが都会に遠征したのは、人口密度の高さを求めたのでは
ないか。昆虫のような印象だ。繁殖は等比級数的加速的なものであり、早期に
対応しないと人間は虫に勝てない。車は市街部を抜け田園と工場が混ざった地帯へ
入る。高層ビルはしだいに少なくなり、見通しの良い景色に変わってゆく。
1キロほど先にガレドリームの小さなビルが見える。一階が鉄工所のような工房で
二階が事務室と住居、三階が展示室と社長室で、それだけの建物である。


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