スクランブル交差点に人があふれる。個々が互いをかわしながら進行する ので、リコを見つけたファンも彼女に近づくことはできない。リコは 無関心な人々を盾に使ってファンから逃げつつ、4人の仮面女を確認し続けた。 これは限界があるが、2人が仮面内蔵カメラのシャッターを押したのは見えた。 その二人は人間だろう。人形がガレドリームから大工場に発注されて大量産 されたらどうなるか?信号が黄色になったときリコはまだ交差点の中ほどに いたが、さすがに人はまばらになったのでトビウオのようにダッシュして 向こう岸に滑り込んで、仮面を付けた。 「よくついてきたわね」 とふりむかずに後ろの記者に声をかけた。 「び、尾行としては失敗だけどね。ゼイゼイ」 リコが振り向かず相手を見ることができるのは時計ベルトの小型カメラを 向けているからだ。仮面内部の小モニターに映る仕掛けである。歩きながら、 「どこの写真誌?」 「俺はフリーだよ」 「電車(電気自動車)を持ってるわね?」 「持ってるよ。ドライブしたい?」 「仕事が終わったら面白いところへ行くから運転手になって」 「いいとも!」 リコは記者のアドレスを聞くとヒューマシンに吸い込まれるように消えた。
デザイン室ではヤモから連絡を受けた局員が説明メールを作成している。 リコはデザイン室で白い紙に鉛筆で描いてあった図を広げた。二重円筒の 先端に銛を鈍くしたような塊。部分の拡大図に寸法や材質・重さなどの 注釈がある。スキャンして社内の試作工房に送信し、電話をかける。 「今他に急ぐ仕事がある?」 「無いよ」 「ではそれをすぐに作って。いつできる?」 「6時間ぐらいかかるかなあ」 「どこに一番時間がかかる?」 「先端の整形だ」 「それを重さを変えずに側面シルエットを半楕円にしたら? 楕円を半分に横断割した形で直線が手前」 「それなら全部で一時間だ」 「お願い」 「まかしときなお姫様」 リコは次に記者に電話した。 「フル装備のフェイスキーパー(ムービーカメラ付き携帯電話付き仮面)を 10枚買って。デザインはなんでもいいわ。それから折りたたみ式の 楽譜立てを10基。それから針金とペンチ。白と黒のペンキペン。 電話は即使えるようにして。代金は立て替えておいて」 「了解。それぐらいの金はある」 デザイン局長が部下に 「パソコン10台をこっちにまわせ。各一台の電話とつなぐ用意をしろ。 今日は仕事は休みだ」 他の男が 「いったいどうなるんでしょう」 と言うと局長は 「さっぱりわからんよ!」 と答えた。
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