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作品名:終末人形 作者:砂野徹

第1回   仮面の女たち


男のような服を来て大きなショルダーバッグを掛けた短髪の若い女が
街を歩いてゆく。顔を覆う楕円板状の・・・顔に沿ったふくらみは
ある・・・仮面を付けている。よほど軽い材質らしく、眼鏡式に装着
している。面には簡略な顔らしき図が描いてある。すれ違った女の
二人連れは
「米山リコじゃない?」
「写真誌と同じ姿ね」
と囁き合った。人が行き交う街なかで、同種の面をつけた女は他にも
ちらほら、いる。

--20XX年11月--

かの女は喫茶軽食店[森の椅子]のドアを通った。ウェイトレスが
「いらっしゃいませ」
と愛想の良い声をかける。
「リコちゃんここよー」
と奥の席で片手を上げたのは同僚の麦原ヤモである。ヤモはリコが
歩いてくる間にウェイトレスに
「ヤキソバとごはん」
と注文を告げ、リコに
「あれっエルちゃんは?」
と尋ねた。
「食欲がないんだって」
とリコ。ロボット製造[ヒューマシン社]のデザイナー米山リコが
席に付き面を外すと20才の顔が現れた。どことなく高速で回転する
独楽のような[唯ならぬ静寂]を感じさせる。眼鏡式の仮面は
フルマスクあるいはフェイスキーパーと呼ばれるもので、本来は夏の
紫外線対策用だが、なんとなく顔を隠したいとか化粧の手間をかけずに
外出するために季節を問わず使う女性も少なくなかった。
「私イタスパと野菜サンド」
リコも注文し、仮面をバッグにしまった。
「そのお面だけどさ」
「増えたわね」
「4年前の夏に始まって、秋冬春にも少しは見かけたけど
 この秋はそれよりなんだか多いのよ。
 リコちゃんには都合がいいだろうけど」
「そうね」
リコは有名人だった。
17才までにさまざまな楽器とダンスコンクールに優勝あるいは
入賞し、ジャグラ大会でも日本一になっている。本人曰く[思い通りに
体を動かせる]のだ。書物は一度読むと覚えてしまうため学校へは行かず、
[得意でなく、手間がかかる]という理由で10才ごろから絵の勉強を続けて
18才でヒューマシンに入社した。芸能事務所からの誘いは多かったが
断った。観客は好きだが取り巻きは嫌いなのだ。
ところがリコのデザインは好評で、会社もリコ作を強調したので彼女の
人気は下がらない。だから外出には仮面を常用している。

ウェイトレスがトレイに料理をのせて軽やかな足取りでやってきた。
「お待たせしました」
その顔は雪ダルマが笑ったような仮面をつけている。





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