「社長もあちこちで相談しているでしょうから、秘密でもなんでもないでしょう。私は実際に社長が実行するかどうか疑問だわ。もし失敗したらどうするのでしょうね。うちみたいなまだ小さな会社は影響が大きいでしょうね。本業が危うくなると困るわ。」 「そんな心配は無用だね、朝霧さん。社長は採算のあわないことはしないから。信じていいね。私も永いからね、彼とは。もう何年になるかな。かれこれ10年にはなるね。彼の性格はよく知っているつもりだ。無茶なことはしないね。堅実なほうだ。」 「私も社長は堅実だと思っていました。しかし、そんなお話し伺って意外です。少し見方が変わったわ。どうしてそんな気になったんでしょうね。」 「どうしてだろうね。私にも分らないな。ただ考えられることは、彼、大学は文学部だろ、友達に作家だとか、評論家がいるといっていたな。それらに影響受けているかもしれない。そうだきっとそれだろう。」と関本部長は新発見でもしたみたいに、力をいれて言った。 「社長は作家にでもなりたかったのかしら。」と夕子は文学などには興味がないという語調で、呟くように言った。 「それはありそうもないね。文学にそれほど興味あるとは思えないな。経済学部に受からなかったから、文学部に行ったと言っていた。行きたくて行ったわけじゃないんだ。渋々入ったら、才能ある同級生に会い、影響を受けたのだな。その後遺症かも知れないな。」 「ますます嫌だわ。病気みたいで。感染した病気が今になって症状が出たのですね。困るわ。」 「困らなくてもいい。大丈夫だよ。きっと成功する。私が請合うよ。朝霧さんはそんな心配しないで、自分の仕事をしておればいいのだ。あなたは仕事をしている時が一番生き生きして見えるよ。第一眼が輝いている。好きなのだな。だけど、仕事ばかりでも面白くないから、少しは遊んで生活を楽しまないといけないね。ところで好きな人はいるの?」
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