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作品名:当世女性気質 作者:石田実

第57回   57
こういう時に、寄り道をしていく彼女ではなかった。通いなれた道を通って家に戻った。
 その夜、彼女は夢を見た。結城が会社を辞めると言い出し、盛んに彼女が彼を説得していた。彼は彼女と結婚できないならもう会社にいる必要はない、辞めて帰郷すると言っている。彼女は結婚できないが、一緒に仕事をしようと言っている。どこまで行っても平行線だった。悲しくなって目が覚めた。暫く沈んだ気持ちで暗い部屋の中のベッドの上で目を開けたままでいた。外は物音一つしなかった。まだ朝には時間があるようだった。何も考えず、じっとしているとまた睡魔がやってきた。彼女はまた眠った。
14.
 土曜日が来て、約束通り結城はみどりと会った。彼女は先に泳いでいると言っていたので、結城は直接室内プールに行った。着替えてプールサイドに立つと、結城は泳いでいるみどりを見た。彼女は水しぶきを上げて、クロールの綺麗な泳ぎをしている。結城には気付いていないようだ。彼はプールの一方の端の方に行き、ゆっくりと体操を始めた。暫くするとみどりは彼に気付き、声をかけた。
「あら、来ていたの?気付かなかったわ。」
「うん、さっきね。もう大分泳いだみたいだね。」
「そうね、300メートルぐらいかしら。」
とみどりは息を弾ませて言った。
「今日の目標は?」と結城は床に座って、柔軟体操をしながら聞いた。
「そうね。二千メートルぐらいにしておくわ。」
「そう、じゃ、僕もそのくらい。」
と結城は言って、立ち上がり水の中に飛び込んだ。
みどりの身体が直ぐそばにあった。相変わらず大きな胸が彼には気になった。彼女はこの前と同じ競泳用の水着を着ていた。
「それじゃ、始めは一緒に泳いでちょうだい。」とみどりは言って、泳ぎ出した。結城は彼女の後を追った。ゆっくりとスローペースでふたりは同じコースロープの中を泳いでいった。五十メートルはみどりが先にターンして、続いて結城がターンした。みどりの脚のキックはよく効いていて、水しぶきが上がった。結城はそれから少し後を泳いだ。そんな風に三百メートルほど泳ぐとみどりのピッチが落ちてきた。結城は彼女と並び、更に一気に追い越して、先に出た。みどりは先に泳いでいたので疲れが出たのだ。彼女は一旦泳ぎを止めた。結城は泳ぎ続けた。暫くすると結城はみどりがいないのに気付き、ターンのときに泳ぎをやめた。彼女は水から上がり、床の上で休息している。結城も水から上がり濡れた体でみどりに近付いた。みどりはすかさず肩に掛けていたタオルを結城に投げた。
「有難う。どうしたの?疲れた?」と結城は聞いた。「いえ、全然。これからまた泳ぐわよ。」と言って笑みを浮かべた。


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