次に姿を現したのは、頭を針鼠にした流行の髪形の青年だった。少し緊張気味だったが、笑顔は忘れなかった。いかにも人懐っこさが感じられた。丁寧に挨拶をして、腰を下した。同じように部長が会社の説明をする間、彼は部長の顔を凝視していた。何も質問はせず、沈黙を守っていた。 「何か質問がありますか。」と部長は一通り説明が終ると聴いた。針鼠の青年は、「僕ぐらいの年齢で、年収はどのくらいでしょうか。」と忌憚無く聴いた。 「そうですね、350万円ぐらいでしょうか。半年は賞与がありませんので。」 「そうですか・・・・。」と青年は後の言葉を濁した。 「不満ですか?」と今度は夕子が訊いた。 「いえ、不満ではありません。たぶん今と変らないと思います。給与のことはそれほど気にしませんが、それでも肝腎なことなので聞いただけです。」と言って彼は又笑顔を見せた。 「うちの会社は業績で評価しますので、やればやっただけ賞与が増えます。反対にやらなければ増えないし、減っていきます。だから貴方が頑張ればもっと収入を増やせます。」と部長は青年に言った。 「僕もそこを期待しています。成果を評価してくれる会社を探しています。」 「今までの会社はどうだったの?」と部長が訊いた。 「いや、全く評価無しです。会社の利益が出ないので悪いけど現状で我慢してくれと3年も言われ続けました。」 「そりゃひどいね。うちはそんなことない。此処にいる朝霧君だっていい例だがたくさん貰っている。」 「それ程でもないけれど、成果主義は確かね。社長がそういう意向だし、社長自身仕事をしますからね。」と夕子が応えた。 「転職の動機は収入アップ?」と部長が青年に訊いた。 「はい、そうですが、それだけでもないです。社内の事情もあって、辞めたいと思っています。」と青年は少しうつむき加減になった。 「その事情と言うのは何ですか?」と部長は追究して来た。
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