20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:当世女性気質 作者:石田実

第5回   5
次に姿を現したのは、頭を針鼠にした流行の髪形の青年だった。少し緊張気味だったが、笑顔は忘れなかった。いかにも人懐っこさが感じられた。丁寧に挨拶をして、腰を下した。同じように部長が会社の説明をする間、彼は部長の顔を凝視していた。何も質問はせず、沈黙を守っていた。
「何か質問がありますか。」と部長は一通り説明が終ると聴いた。針鼠の青年は、「僕ぐらいの年齢で、年収はどのくらいでしょうか。」と忌憚無く聴いた。
「そうですね、350万円ぐらいでしょうか。半年は賞与がありませんので。」
「そうですか・・・・。」と青年は後の言葉を濁した。
「不満ですか?」と今度は夕子が訊いた。
「いえ、不満ではありません。たぶん今と変らないと思います。給与のことはそれほど気にしませんが、それでも肝腎なことなので聞いただけです。」と言って彼は又笑顔を見せた。
「うちの会社は業績で評価しますので、やればやっただけ賞与が増えます。反対にやらなければ増えないし、減っていきます。だから貴方が頑張ればもっと収入を増やせます。」と部長は青年に言った。
「僕もそこを期待しています。成果を評価してくれる会社を探しています。」
「今までの会社はどうだったの?」と部長が訊いた。
「いや、全く評価無しです。会社の利益が出ないので悪いけど現状で我慢してくれと3年も言われ続けました。」
「そりゃひどいね。うちはそんなことない。此処にいる朝霧君だっていい例だがたくさん貰っている。」
「それ程でもないけれど、成果主義は確かね。社長がそういう意向だし、社長自身仕事をしますからね。」と夕子が応えた。
「転職の動機は収入アップ?」と部長が青年に訊いた。
「はい、そうですが、それだけでもないです。社内の事情もあって、辞めたいと思っています。」と青年は少しうつむき加減になった。
「その事情と言うのは何ですか?」と部長は追究して来た。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 7875