「うん、とてもいいです。」 みどりは、立ち上がって、出来立てのコーヒーをメーカーからは外して、そのカップに注いだ。更にいい香りが結城の鼻をついた。 結城は早速コーヒーを味わった。苦味はそれほどなく、美味しいコーヒーだった。 「こんな綺麗なカップで美味しいコーヒーを飲んだことないです。僕はいつも缶コーヒーですから。家でも。それほどゆとりがないということですね。今、気がつきました。」 と、結城はしみじみと言った。 「でも、それが本当かもね。便利で時間かけない方を私も選んでいるわ。コービーもパックに入ったものを買ってきたりするから。ご飯もお弁当で済ましたりすることもあるから。でも、それが味気なくなると、また自分で作ったり・・・、その繰り返しかしら、おかしいわね。」とみどりは少し首を傾げて言った。 「僕は自分で作ることはないけれど、お茶などは急須で飲むこともあるから、便利だけで、選ぶこともないけどね。」 「そう、便利と不便の繰り返しだわ。でも、不便ってことはないわね。手をかければそれだけ美味しくなるってことだから。ただ時間が無いときとか、気分転換のときは簡単な方を選ぶわね。」とみどりは微笑んだ。 「そお、簡単な方に自然に行くね。でも、それが嫌になることもあるから面白い。手間をかけないと入られないこともあるね。不思議だ。生活って不思議だ。」と結城は考え込む様子を見せた。 「あら、そんなに考え込まなくてもいいわ。」とみどりは結城をからかった。 「ほんと、何だか深刻になっちゃった。」と言って、結城は立ち上がった。「お腹もいっぱいになったし、そろそろ、失礼します。」 「あら、まだいいじゃない。ゆっくりしていって。帰って仕事をするわけじゃないでしょう?」とみどりは座ったまま、結城を見上げて言った。「仕事はしないけど、こんなに長くいては失礼だし。」と彼は立ったまま言った。「失礼なんかじゃないです。早く帰る方が失礼よ。」とみどりはふくれて見せた。結城はどきりとした。「だけど、女性の部屋にこんなに長くいたこともないし、勝山さんもすることがあるでしょう。」と彼はみどりを見ずに言った。「私は何もすることがないわよ。結城さんと話をしていたいだけです。」 とみどりは結城の横顔を見ながら言った。結城はまた椅子に座った。暫く沈黙があった。「コーヒー入れるわね。」とみどりは立ち上がった。みどりが流しの方を向いたとき、結城は彼女の後姿を凝視した。形のいい腰と尻に目がいったとき、彼は欲望を感じた。それを打ち消すように、「勝山さんはよく旅行するんですか?」と聞いた。
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