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作品名:当世女性気質 作者:石田実

第46回   46
人が少ないのがよかった。二人は更衣室に行き、水着に着替えて、プールサイドに立った。みどりは競泳用の紺の水着を着ていた。相変わらず、大きな胸が結城には気になった。
ふたりは柔軟体操をしばらくしてから、空いているコースに飛び込んだ。そのまま、反対のプールの端まで泳いだ。結城が先にいき、みどりが続いた。結城が先に着いた。みどりが来ると、結城は今度は競争をしようと言った。隣のコースが空いたので、ひとりで一コースを占有で泳げた。最初は50メートル競争だった。結城は軽いストロークで泳いでいった。彼はみどりと並んで泳いでいた。最後の十メートルでピッチを上げ、わずかの差で結城が勝った。みどりは悔しそうに水を手で叩いた。少しハンディを付けなければとみどりが言った。次はもっと長距離を泳ぐことになって、千メートルは続けて泳げそうだけど結城は千百メートル泳いでとみどりが言った。彼はそれを承知した。
 結城はまたゆっくりとしたストロークのクロールで泳いだ。みどりの泳ぎに合わせて初めは並んで泳いだ。五回目のターンで、結城は少しピッチを上げた。みどりは少し遅れた。それでも、離されないようにみどりは泳いだ。まだ十分余力があるとみどりは思った。足の蹴りも強く水を打って、飛沫を上げた。八百メートルを過ぎて、少し疲れたのだろうか、ピッチが落ちた。結城はすでに折り返してきて、プールの中ほどですれ違った。もうすでに五十メートルの差がついているのだ、とみどりは思ったが、ピッチが上がらない。結城は更にスピードを上げて、みどりがターンした頃にはプールの中ほどまで来ていた。結城はみどりとすれ違った時、勝てると思ってまたスピードを落とした。彼がターンした時、みどりはもう目の前だった。これなら最後の百メートルで抜けるに違いない。またタッチの差で勝とうと結城は思った。みどりは抜かれまいと最後の力を出して、泳いだ。それほどスピードは上がらなかった。結城はついに追いついて、夕子と並んで泳いだ。最後の十メートルで結城はピッチを上げまたタッチの差で勝った。みどりは悔しがる前に息を弾ませて、しばらく呼吸が収まるのを待った。そして、負けた悔しさよりも、完泳した喜びに満足していた。結城も呼吸を整える間、何も言わなかった。
 みどりは結城のコースに入って、結城の胸板に触ってみた。まだ、呼吸が荒かったので、筋肉が波打つのが感じられた。肺活量が多きいのだとみどりは思った。
「少し休みたいわね。一度出ますから、後ろから押してちょうだい。」とみどりは言って、プールの端に両手を掛けた。そして彼女が跳び上がった時に、結城は彼女の腰を持って、彼女の体を押し上げた。まだ、下半身が上に上がらないので、彼は彼女の大腿部を持って押し上げた。彼は手に柔らかな感触を覚えた。彼女の体がすべて床の上に上がったのを見て、結城は自分も腕の力で、水から出た。プールの床の上でふたりは呼吸が静まるのを待った。


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