11. 結城は夕子との関係を他の社員に覚られないように振舞った。しかし、どこかに彼女への思いが出るらしく、彼女との同行に顔の表情や態度から、石田課長にそれとなく指摘されることもあった。仕事の楽しさだとそのたびに結城は弁解していた。 夕子はしかし、家への招待を結城に言って来なかった。結城も一々聞くことも無かった。仕事中には不謹慎のように思われた。それでも気にはかかっていた。どんなに多忙の時でも、忘れたことはなかった。こんなに気になるなら、むしろ約束などしなければよかったと思った。それより、もう一度、夕子にそれとなく確認するだけでよいのではないかと思った。恋愛に先回りは禁物だとそのとき彼は思った。自然の流れに任すべきではないのか、先回りの約束などするとそのことで、仕事が手につかなくなる。 廊下で会うたびに結城は夕子に目配せするだけだったが、とうとうある日、思い切って夕子に言った。夕子は多忙を理由にまだ決めてないとだけ言った。結城は失望したが、重い心の中の錘が取れた気がした。 ふたりを拘束しているものが取れて、結城はまた気軽に彼女に話しかけられると思った。もう、招待されることは忘れよう、彼女の自由意志に任せようと思った。そう思うと彼はまた仕事に熱中していった。 結城はみどりとも食事をした。みどりは向井と付き合っていることを告白した。付き合うと言っても偶に食事するぐらいだと、彼女は弁解した。共通な話題がまだないとのことだった。結城とは水泳の話が出来るとみどりは言った。一緒に泳ぎに行きたいと思っていると打ち明けた。屋根付のプールなら一年中泳げる、家の近くにあるので、今度の休日に行きましょうとみどりは言った。結城はためらったが、みどりの甘えた声に、うっかり返事をしてしまった。結城は後で後悔した。もし同じ日に夕子の誘いがあったらどうしよう。みどりの誘いを断るのも変だし、と言って、またあるかどうかも分からない夕子の誘いを断るわけにはいかない。まあ、みどりとの約束をそれらしい理由をつけて断るしかないと彼は覚悟を決めた。 しかし、休日の前の日になっても夕子の招待はなかった。みどりからは約束の場所と時間を書いた紙をそれとなく手渡された。夕子への失望が結城をみどりに向かわせた。彼はみどりに了解の合図を送った。 それは、晴れて秋の清々しい一日だった。約束の場所で結城はみどりに会った。彼女は派手な縞のワンピースにサンダルを履いていた。まだ夏を思わせる装いだった。胸の大きさと腰のくびれがはっきりとわかった。彼女は笑顔で、嬉しいと言って、彼の左腕を抱いた。彼は彼女の胸の弾力を感じた。 プールは歩いてすぐのところにあった。 入場料を払って中に入ると、競泳用の50メートルのプールが見え、数名のものがコースに沿って水しぶきをあげて泳いでいた。
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