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作品名:当世女性気質 作者:石田実

第41回   41
「期待していただいて有難うございます。石田課長を追い越すようせいぜい頑張ります。」と向井は真面目に言った。皆はまた笑った。テーブルの上の刺身や煮物は瞬く間に無くなる。特に結城とみどりの食欲は旺盛だった。野菜もすっかり残り無く食べた。ご飯をお変わりして、夕子と向井のおかずまで手を出した。刺身は新鮮でさすがに海の近くだけあった。窓の外はすでに暗く、庭の篝火がところどころ輝いていた。
「食事の後は庭で、何か飲もう。」と結城が言い出した。「そうね。いいわね。この前来た時は庭には出なかったわね。気が付かなかった。」とみどりはいい考えとばかりに言った。「庭でも食事取れるのかしら。」と夕子は庭の方を見ながら言った。他に誰も食事をしているものは無かった。「どおでしょうね。」と向井も庭の方を見た。
 青い芝生が篝火で一部分見られ、椰子の木も少し見えた。その向こうは砂浜と海だが闇に包まれて見えなかった。
 食事が終わると、彼らはコーヒーカップを持って外に出た。白い鋼製のテーブルと椅子が四脚あり、彼らはそこに座った。波の音が聞こえる。風はすでに涼しく、虫の鳴き声もしている。
「もう、秋だわね。」と夕子がポツリと言った。「本当にもう秋の気配がしますね。」と結城が夕子の顔を見ながら言った。「それにしても今年の夏は暑かったわね。」と今度は夕子が結城の顔を見ながら言った。「そうそう、僕ら営業は大変だったです。ペットボトルを放さず、汗を拭き拭きですからね。服はもうグシャグシャで。」と結城は夕子に確認するように言った。夕子は笑みを浮かべている。「勝山さんは一日室内でエアコンの利いたところにいて、いいなあ。」と結城は羨ましそうに言った。
「でも、体が冷えて、あまりよくないわ。毛布を膝にかけて、冷えすぎないようにしているの。温度は調節してもらうけれど、中には暑いという男性もいるので困るわ。」
「贅沢な悩みだな。代ってほしいぐらいだけれど、そう言っていられないから、出来るだけ会社にいようと思って、電話をしてみても、相手は離席していて、なかなか捕まらないし、やっぱりいたたまれず外出してしまうことになる。」と結城は普段のやり方を弁護した。我侭だと言うものはいなかった。いずれにしろサラリーマンは似たり寄ったりだ。弁護を咎めても仕方がない。


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