「で、どんな広告がしたいの?」 「そうですね。ネットとかテレビ界も。」 「テレビは大変だ。うちはまだスポンサーがいない。開拓はしているがね。そのうちここにいる朝霧君がやってくれるだろうが。ねえ、朝霧チーフ。」と部長は夕子に水を向けてきた。 「お客さんはいますけれど、予算の点とか、時期のことがありますから、そう簡単にはいきません。でも近い将来うちでもすることになると思います。」と夕子は言った。 「なるでしょうね。」と部長は夕子の手前、話を合わせた。普段は逆で夕子たち営業マンの弱点を責めることがあった。 「それで向井さんは」と夕子は履歴書に目をやりながら訊いた。「テレビCMの仕事をしたいのですか?」 「はい、是非やってみたいです。」 「それでどんな会社を知っているの?」 「そうですね、山一食品とか、北川薬品とか。」 「山一食品はまだCM出すほどの会社ではないですね。北川薬品はよく知らないけど。でも多分出さないでしょう。そう思うわ。」 「計画はしています。担当者から聞きましたから。でも今いる会社では何も出来ないから手を出せないのです。残念です。」と向井君は言って肩を落とした。 「他にはどんな会社知っているの?」とまた夕子が訊いた。 「不動産関係の会社ならよく知っています。雑誌を出していましたから。」 「不動産会社がCMを出すかしら。」 「出します。事実出しているところもあるし、出そうと計画中のところもあります。そういう会社のお手伝いがしたいです。」 「あなたのいう不動産会社は『マニファ』のこと。」と夕子はいつかテレビで古河絵美を使ったCMを思い出しながら訊いた。 「そうです。古河絵美です。最近は若い女性を使ったCMに変わってきています。一人住まいの女性をターゲットに、市場の変化を先取りしています。しかし、いまだにごつい男性をモデルに使おうとする頑固な社長もいます。説得は難しいですが。」と向井君はいかにも経験がにじみ出ている様子で言った。面接官には彼の熱意が伝わったようである。後は、勤務条件の簡単な確認で終わった。
|
|