「遠慮はしていません。泳ぐなら海よりプールの方がいいので、気が向いたらプールで泳ぎます。」 「あそこのプールは小さいので、泳ぐことはできません。水遊びだけですよ。」と結城が言った。向井はそれでもかまわないと言った。彼はそれよりホテルの温泉に入りたいということだった。そして夕子と卓球でもしていたいと言った。年寄りみたいだと彼は結城に冷やかされた。 食事の後、結城とみどりはまた海に向かった。夕子と向井はそれをぼんやり見ていた。ふたりの身体は次第に水の中に隠れ、また頭だけになった。そして右から左に向かって泳いでいる。相当泳いでから、また向きを変えて左から右に泳ぎだす。時々夕子たちに向かって手を振っている。水を飲んだのだろう大きな声を出し、それが夕子たちのところまで聞こえる。ふたりはクロールで泳いでいた。結城が先になったり、後になったりして、疲れると足が着くのだろう、休んでいるように見える。海に入っているものは少なかった。もうシーズンは過ぎていた。日差しはまだ強く、最後の水泳日和だった。 夕子は結城にホテルに行くという合図を送った。結城が両手で了解の輪を作った。 「向井はどうする?」と長いすに寝そべって同じように海を見ている彼に夕子が聞いた。 「僕もホテルに行きます。温泉に入ります。」と彼は言って、長いすから立ち上がった。ビーチから中庭を通って、ホテルに行けた。中庭は芝生が敷き詰められていて、所々に椰子の木が植えられ、木陰に鉄製の白いテーブルと椅子が置かれていた。敷石道を通って彼らはホテルのロビーへ出た。受付カウンターで鍵を貰い、部屋に向かった。 「わたしも温泉に入って、部屋でゆっくりするわ。あのふたりもその頃には戻って来るでしょう。」と夕子は言って、自分の部屋に入った。 ドアのノックの音で夕子は目が覚めた。ドアを開けるとみどりが日に焼けた顔で現れた。水着の上にヨットパーカーを羽織っている。部屋に入るなりシャワーを浴びたいといって、浴室にいく。やがてシャワーの音がした。夕子はまだ頭がすっきりせず、ベッドに横になる。しばらくすると体にタオルを巻いたみどりが浴室から出てきた。 「あー、すっきりしたわ。海水で体がべたべただったので。」と彼女は言って、絞った水着を手に持って干すところを探している。ベランダに紐があるのを見つけると外に出て、水着を干す。また中に入るなり、「温泉に入ったの?」と彼女は夕子に聞いた。夕子は、もう既に入って、少し居眠りしたと言った。みどりは、それなら夕飯までには時間があるので、一人で入ってくると言った。
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