午後、外出すると、相変わらずの残暑だった。地下鉄に乗って、日本橋に向かう。車内はエアコンがよく効いていて、涼しかった。このままどこまでも乗車していたいと夕子は思った。結城は疲れ気味の夕子をいたわって盛んに弁解している。豊製薬の関本部長の紹介なので、大事なお客さんだ、当社の経歴も聞かれるし、夕子がいれば心強いと言った。しかし、夕子にはどうも彼女を連れ出す口実にしか過ぎないと思った。いずれにしても彼女は結城と同行することを嫌っているわけではなかった。 「勝山さんから聞いたでしょう、旅行の話。」と夕子は結城に言った。 「ええ、聞きました。楽しそうなので行くことにしました。朝霧さんも一緒と言っていました。」と結城は嬉しそうに言った。 「ええ、今のところ休めそうだし・・。」 「休んだ方がいいです。朝霧さんみたいにそう仕事ばかりしていてはそのうち身体壊しますよ。」と結城は言った。 「わたしは大丈夫。身体は丈夫だから。今までに病気したことがないの。」と夕子は自慢した。 「いやいや、そういう人に限って危ないから。突然倒れたりすることもありますから。」 「あら、随分心配してくれるのね。」 「そりゃもう。朝霧さんのことは心配になります。これからは朝霧さんの分まで頑張りますから、身体を大事にしてください。」 「ありがとう。頼りにしています。」と言って夕子は笑った。 関本部長の紹介先の会社では、挨拶程度で終わった。それからふたりは別行動をとり、会社に戻ったときは二人とも七時過ぎていた。社内はまだ電話が鳴ったり、大きな声で電話をしているもの達がいた。これから九時まで社内は静かにならない。 9. 千葉への一泊旅行は、予定通り四名で行われた。東京駅に集合して、京葉線で曽我にそれから外房線で一宮に向かった。快晴の日で、海や山が輝いていた。うす雲は既に秋の気配を感じさせた。ホテルに着くと、皆は水着に着替えて、浜に行った。結城とみどりは早くも海にはいり、沖まで泳いで行った。頭だけ見えて、手を振っている。声が浜まで届く。夕子と向井は足だけ水に濡らしたが、すぐにビーチパラソルの長いすに寝そべった。夕子は向井に泳ぐことを勧めたが、彼は水が冷たいと言って動かなかった。みどりと結城も沖から彼を誘ったが彼は手を振るだけだった。「何かスポーツをしてたのでしょう?」と夕子は向井に聞いた。
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