「誰にもそうなの。」 「いえ、朝霧さんだけです。」 夕子はやっと笑みを漏らした。 「これからも思いやられるわ。」と夕子は結城を子供あつかいして言った。 「僕は面接の時から朝霧さんに惹かれていました。今はもっとその気持ちが強くなったのです。ごまかして生きていけないのです。」と結城は夕子を見つめて言った。 「まだお互いによく知らないのだし、もう少し時間をかけましょう。あなたの気持ちは嬉しいけど、わたしは仕事をしたいし、あなたの思うとおりにはなれないわ。それでよければ、お付き合いするわ。」夕子も結城の目を見て、言った。 「それでいいですよ。僕もあなたを束縛しません。思うとおり仕事をしてください。気持ちだけは伝えたくなったので、それが分かってくだされば十分です。」と結城も彼女の目を見て言った。 店員が追加注文をとりに来た。二人は更にレモンハイと料理を注文した。夕子は珍しく三杯目だった。しかし、まだ酔っている様子は見られなかった。夕子は趣味の話、絵画や音楽のことを話した。結城はスポーツや読書のことを話した。退屈するとまた仕事の話になった。 ふたりが店を出たのは十時過ぎであった。夕子は店の前に止まっていたタクシーに乗り、結城にお先にと告げた。結城が送っていくと言っても、押し留めた。一人になると急に酔いが回ってくるのを感じた。彼の言葉と自分が言った言葉が反芻された。これが恋だろうかと彼女は思った。彼女が少女の頃はよく夢見たが今ではすっかり忘れていた。結城とのことはそれだろうか?彼女には分からなかった。酔いのためにそれ以上考えることは出来なかった。 翌日は疲れが残り、夕子は遅れて出勤した。結城は通常通り出勤して、夕子を見つけると、笑顔で話しかけてきた。彼は午後から会社訪問があるので、夕子に一緒に行ってほしいと申し出た。彼女は特別予定が無かったので、承諾した。 廊下でみどりに会うと、彼女は結城に千葉の海の話をしたと言った。結城も興味を示して、向井も誘うと言ったらしい。みどりは時期を決める必要があると言った。彼女は、三連休があるのでその日はどうかと言った。泳げる最後の機会だとも言った。夕子は、皆がよければ同意すると言った。
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