居酒屋『吉』で結城は待っていた。そこは新橋駅からそれほど遠くない、社員のあまり来ない店で、夕子もたまに行く程度だった。個室があるので他の客に気付かれなくて済む。いつものように生ビールで乾杯して、喉の渇きを潤した。今日は特別美味しいと夕子は思った。結城も美味しそうにビールを飲んだ。 「いやー、朝霧さんに出会えてよかったです。仕事も順調だし、お蔭様で。前の会社では本当にショゲテいましたからね。やる気を失くしていました。それを思うと今は本当にやる気が出ています。」と結城はいつものように人懐っこい笑顔を見せた。夕子は採用面接の時を思い出していた。そう言えばあの時も同じ笑顔を見せていて、それが印象に残っていた。「面接のときも熱心だったな。どうしても採用してくれって、言ってたな。」と夕子は結城に言った。「ええ、はっきりと覚えています。僕は朝霧さんに訴えていたのです。この人なら採ってくれると思ったものですから。もう感じるところがありました。」 「何を感じたんだよ。私は皆冷静に見ていただけだし、本当は石田課長が面接する予定だったんだ。それがたまたま都合が悪くて私に回ってきただけなんだ。」 「それが僕のついてるところですね。これがもし石田課長だったら、わからなかったですからね。」 「そんなことはないよ。結城なら課長は採用したと思う。ただ髪型が印象壊したかもしれないけれど。」と言って夕子は笑った。 「僕も余程考えたんだけれど、髪型は個性があった方がいいし、印象に残ると判断したんです。質問されたら、営業で訪問した時に担当者の印象に残ると答えるつもりでした。ところが何も触れられなかったので、理解のよい会社だと思いました。」 「まあ、髪型は様々だから、最近は。あまり文句を言う人はいないよ。それより、やる気の方を見るからな、誰でも。」 「だから僕は朝霧さんにやる気を見せたんですよ。あなたは女性としてはキビキビして、仕事に熱意をもっていると思いました。お化粧もあまりしてなくても、肌がきれいで、輝いていました。これは多分仕事に熱中しているからだろうと思っていました。仕事が好きで、いつも仕事のことを考えているんだということがわかりました。案の定、そうでしたね。僕の勘は当たりました。」と言って結城は彼女の顔を見つめた。彼女は少し伏目がちにしていて、口元には笑みが浮かびそうであった。
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