「ええ、良い考えね。こんなところそうざらにはないからね。よく見つけたわね。雑誌で見たの?」と夕子は聞いた。「ええ、特集のガイドブックで。」 「そう、みどりはよくそういう種類の本見ているわね。」 「ええ、泳ぐのが好きだから、きれいな海を探しているの。此処は当たりね。日焼けはしたくないけど、こればかりは仕方ないわね。」と言ってみどりは笑った。もう既に顔や身体は少し赤身がかっていた。夕子はなるべく日焼けしないように、パラソルの影の中にいた。 「結城さんも来るかもしれないわね。」とみどりは夕子の顔を見て言った。突然の結城の名前に夕子は少し驚いた。「そうね、来ると思うわ。向井も来ると思う。」と夕子は何も考えずに言った。「わたしは結城さんに来て欲しいわ。」とみどりは海を見ながら呟くように言った。夕子は強いて返事をしなかった。 仕事に戻ると、出版会社の話がいよいよ本格化しだしていた。小さな出版社を買収してそこに本体から社員を出向させる予定になっている、と石田課長が言った。その小さな出版社は主に求人広告の雑誌を出版していた。業績が悪化してきたので青木社長が資本を投入して再生させるということだった。社長の考えが実行されたのだと夕子は思った。それにしても社長は早い決断をしたものだ・関本部長に聞いて、半信半疑だった夕子は事の迅速に驚いた。 営業一課からは人事の動きはなかった。三ヶ月ごとに見直しがあると聞かされた。夕子も移動の可能性を感じた。彼女はどこに行ってもやる自信があると思った。豊製薬に行ったときも関本部長に同じことを言った。部長は彼女の移動を否定した。彼女は、否定は出来ない、いつか必ずあることだと言った。どちらにしても部長は協力すると言った。 結城のことが話題になり、彼の提案はなかなかいいと言った。それでほぼ次の広告は決まっている、それでいくつもりだと断言してくれた。夕子はお礼を言って、彼に仕事を任せてもよいか部長に尋ねた。部長は構わないと言った。 結城は夕子からの報告を聞いて喜んだ。また、ビールの誘いを彼女に向けてきた。彼女も今日は飲んでもいいと思った。時間と場所を決めて、彼女は後から行くつもりだと言った。結城が多分先に行って待っていることになるだろう。
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